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 第28回 「脳卒中」

 最近、私のコラムに対して米国在住の女性からファンレターを頂きました。自分で言うのも何ですが、クリニックの外来で私はカタカナ二文字の女性達から圧倒的人気を誇っております。と言っても、今風のリサ、カノ、サホと言ったしゃれたお名前ではなく、トメ、カメ、クマと言った、幾分視力、聴力に問題があるご婦人達で、実際に私の顔かたちや声の調子をどこまで判ってくださっているのか、大いに疑問です。時に私の手を握り、膝の上に手を置いて診療を受けに来たのか、世間話しをしに来たのか分からない方々に、多忙な中でゆっくりお話しを聞き、「お大事に」とお送りする事は一時のくつろぎで大きな喜びです。とは言え、若い素敵な女性からのファンレターはこれに倍する喜びで、すっかり舞い上がっています。

 さて、今回はこの女性Tさんからの質問もあり、脳卒中についてお話ししたと思います。

 小渕さんの一件で、国民の皆が脳卒中の怖さを実感しました。このところ毎日何人もの患者さんから、ちょっと頭が痛いとかボーっとするので脳梗塞の精密検査をして欲しいと頼まれます。脳卒中は血液の固まり(血栓)や血管壁の動脈硬化の一部(プラーク)がはがれて、脳の血管に流れて詰まる脳梗塞と脳の血管が破れて起こる脳出血と言われる病態の総称です。96年の我が国の患者数は173万人と言われています。

 脳卒中は虚血性脳血管障害とも呼ばれますが、この原因として、

 1)心臓に問題がある場合
 2)頚動脈、大動脈、比較的大きな脳内の血管に問題がある場合
 3)脳内の小さな血管の病変による場合
 4)血液疾患があり出血しやすかったり、逆に血液が固まりやすい病態

 等が考えられます。

 小渕さんの場合は心臓に問題があったそうですが、心臓由来のものは脳梗塞全体の20%を占めると言われ、心臓弁膜症や心筋梗塞、不整脈等の心臓病があると、部分的に動きの悪くなった心臓の中で血液と接する場所に、川岸に淀みが出来てゴミが溜まるように、血の固まりが出来て脳に流れて行き血栓となります。一旦動脈に詰まった血栓は治療の結果として、又何もしないのに自然に溶けて血流が再開通することがあり、この際脆くなった梗塞巣内の血管が破れて出血を来たす事があります。これは出血性梗塞と呼ばれ、30〜40%に見られると言われています。小渕さんは不幸な事に重篤な出血性梗塞が広範囲に起きたたようです。

 血栓が出来そうな心臓病があらかじめ判っている場合には、アスピリン等の血栓を予防する抗血小板剤という薬が使われます。心臓から頭に向かう大動脈、頚動脈に動脈瘤が出来たり動脈硬化で血管の内腔が狭くなったり、不規則な表面になると、軟らかいオカラの様な動脈硬化(アテローム)の一部や硬く石灰化した一部が血流ではぎ取られ脳に流れていき、血管に詰まって梗塞を起こす場合があります。これは欧米人に多いタイプですが、最近日本人でも増えつつあると言われ、糖尿病、高脂血症、高血圧等が基礎にあることが多い様です。

 さて、高血圧症は脳卒中の最大の危険因子であることは皆さん良くご存じですが、血圧が高くなくとも動脈硬化で狭くなった脳血管の血流の圧(脳灌流圧と言う)が逆に低血圧で低くなったり、心臓から送り出される血液量が心不全等で少なくなった場合、また脱水等で血液の粘調度が上昇した場合に脳血流が減り、その結果として血栓により末梢の脳血管が詰まる事があります。これは血行力学的脳梗塞と言われ、大脳皮質に多く見られます。夜間睡眠中には一般的に血圧は低下しますが、不適切な降圧剤の使用は寝ている間に過度の脳血流の低下をもたらす可能性があり、「夢は夜ひらく」ではなく、「ボケは夜ひらく」場合もあり、注意を要します。

 脳内の小さな血管が原因の場合はラクナ梗塞とも言われるものが代表選手で、日本人の脳梗塞の50%以上を占めると言われています。この梗塞は穿通枝動脈という小さな血管の閉塞で起こり、直径1.5cm以下の小梗塞を言います。70才以上の人で全く症状のない人でもCT等の検査をすると見つかる事が少なくなく、高血圧が最大の危険因子であると言われています。そのほか脳内の小さな血管が細菌、カビ、結核菌、梅毒による髄膜炎や帯状疱疹のビールス、リッケチア、アスペルギールス、マラリヤ等の感染で血管炎を起こし、詰まってしまう場合や非感染の炎症でSLE、高安病、ペーチェット病、リュウマチ性血管炎等、膠原病と言う難しい病気の血管変化として脳の小血管が詰まって脳梗塞が起こる場合もあるようです。また、色々と議論のあるところですが、喫煙者で血圧の高い女性で経口避妊薬が脳血栓のリスクであるという報告や我が国では希ですがアルコールやコカイン、ヘロイン覚醒剤常習、依存症者で脳内の小血管が閉塞することも報告されています。

 以上、脳梗塞の原因について述べました。色々難しい用語が出てきて頭が痛くなって来たことと思います。次回は脳梗塞の予防と治療について述べる予定です。

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