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 第47回 「カルシウム拮抗剤-2」
 前にもこのコラムで紹介した事のある名物婆さんの一人、Sさんが最近すっかり呆けてきたという家族の話です。外来で面と向かっては結構しっかりしていて分からないのですが、息子が言うにはテレビで水戸黄門が終わるやいなや「さあ、これから助さん格さんが家に来るからご飯の用意をしなくちゃ。」と言ってご飯を炊き始めると言うのです。注意する息子に、運動会のダルマ競争の様な体型の婆さんは、えらい迫力で「やかましい!」と怒鳴るらしいのです。その息子にも最近では「あんたは私の二番目の亭主よねえ。」と言う始末で、親父は死んだ親父一人のはずだがと頭を抱えています。顔に出来たイボを「これはお迎えイボと言って、年を取ると出来るイボだ。」等と、色々変な事を教えてくれた婆さんがもう少し元気でいてくれる事を祈っています。

 さて、今回の医療情報は、ある薬剤師さんからのご質問にお答えして、カルシウム拮抗剤と言う血圧降下剤と果物のユズの併用についてお話します。

 以前にもこのコラムで、カルシウム拮抗剤とグレープフルーツジュースの相互作用による併用上の注意について詳しく述べましたが、グレープフルーツジュースの苦味の成分であるフラボノイド、トリテルペイノイド等の物質に小腸でのCYP3A4と言う酵素の阻害作用があり、これが薬の代謝を抑え血圧降下作用を強めるという物です。パイミカードと言う薬では作用が3日間持続したとの報告もあり、各製薬会社とも右に倣えでカルシウム拮抗剤の併用注意としてグレープフルーツジュースの同時飲用を挙げています。確かに動物実験では併用によりカルシウム拮抗剤の血中濃度が2〜4倍になり血圧降下が見られるとの事ですが、臨床的には各薬剤のエビデンスに基づいた併用による血圧低下のきちんとした論文をまだ見ておりません。ご質問の方が製薬会社から納得行く返事がもらえなかったのはメーカーが説得できる臨床データを持ち合わせていない為かも知れません。

 以前にも述べましたが、薬理学者の中にはジュースよりもグレープフルーツの果肉に多く含まれるフラノクマリン誘導体の方が薬剤との併用でより強く血圧低下作用が見られると主張する人もいて、分からない事も多く今後の研究の結果を待ちたいと思います。

 一方、同じ柑橘系でもオレンジ、ミカン、レモン、ザボン、ボンタン、夏みかん、カボスは安全であると言われています。そこでご質問のユズに関して私の考えはあまり科学的でないかも知れませんが、次の様に考えています。まず調理で用いるユズは果皮の部分の香気を楽しむものであり、果肉や果皮の下にある白いふわふわした部分に多いフラボノイドが一度に多く摂取される事はないと思われます。また果肉の酸味が食酢として用いられているカボスはユズと近縁系であり安全が確認されております。この点に於てもカルシウム拮抗剤との併用は問題ないと思っています。

 これからは鍋ものの季節で私もユズの香りが大好きですが、薬との併用を心配するならむしろ、お酒の方だと思っています。お酒を水代わりに薬を飲むアホな人はいないと思いますが、酔って帰宅しアルコールの血中濃度が高い状態で降圧剤を飲む人は少なくないと思います。夜間熟睡中に血圧が下がりすぎている危険の方をむしろ注意すべきと思います。

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