全100回のIndexはこちら→

 第58回 「線維筋痛症」

 最近は健康や医療に関する情報がテレビ、新聞、雑誌に溢れています。中には、専門外の研究者が実際の臨床的なエビデンス(様々な疾患に対する治療効果の統計学的な根拠)が無いままに生物学や栄養学博士という肩書きでネズミや昆虫の話を我々ヒトにも効果がありそうな話しに仕立てているマユツバ物もあります。健康食品を始める際にはテレビで言ったからとか、お友達の薦めだからと言うだけでなく主治医に相談してみてください。

 医療費の自己負担が制度の改悪で増え、医者を受診するのも薬代も多少高くなりますが、その代わりとして大枚をはたいて怪しげな(健康)食品に頼るのは時として無駄を通り越して命に関わる場合もある事は、中国痩せ薬で証明された通りです。

 先日、医師会の会合で、最近は我々の話よりもミノ・モンタの話を信じる患者が増えて困るとこぼしている先生がいました。病気についてもインターネットで検索すれば、一昔前には大学図書館の医学書や欧米の医学雑誌をひも解かなければ手に入らなかった最新の医学情報が、一般の人でも簡単に手にする事が出来る時代です。賢くなった患者さんの信頼を得るには、私達医者も益々勉強して、上ミノ・モンタにならなければいけないと考えておりますです。ハイ。

 さて、今月の医療情報は線維筋痛症(Fibromyalgia)と言う皆様のあまり耳にした事の無い病気についてお話します。

 クリニックの外来に中年の女性でフシブシが痛い、手の関節が腫れてこわばる、体がだるくて夜眠れない、眼がしょぼしょぼする、口の中がよく乾く、舌がピリピリする、お腹がいつも下痢気味、頭痛があり、人間関係のストレスや梅雨時の気候で症状が憎悪するといった、多様な訴えで来院される方があります。医師はまず慢性関節リュウマチを疑い、血液のリュウマチのテストやCRPという炎症反応を調べる検査、X線検査をしますが、いずれも陰性です。多彩な症状の為に診断が難しく、不定愁訴、更年期障害、自律神経失調症等と言う病名が付けられ、痛み止め、精神安定剤、漢方薬等が処方されますが、あまり症状の改善がはかばかしくなく、患者さんは違う整形外科や内科をぐるぐる受診する事になります。

 我が国では線維筋痛症と言う病名は今まで医師の間でも認識される事が少なく、リュウマチ専門外来や膠原病内科で鑑別診断される他は、きちんとした病名が付けられる事もなく、適切な治療、患者指導が行われて来なかった様です。線維筋痛症は、慢性疲労症候群、シェーングレン症候群、リュウマチ、全身性エリテマトーデス等の膠原病、むち打ち症等頚椎外傷と合併して起こる事があり、一層診断が難しくなります。

 米国リュウマチ学会では、1990年に線維筋痛症の分類基準を提唱しています。これによりますと0.5〜4kgの指圧で肘の両側、第二肋骨の中間部、前頸部側面、後頭部、首の根元の僧帽筋、肩甲骨の上部、臀部、股関節の横、膝の内側後方の18カ所を押して指圧点とし、この18カ所のうち11ヶ所を痛がる場合に陽性とされます。また痛みを始めとした症状が3ヶ月以上持続している事もこの疾患の診断根拠とされます。この病気は人口の1〜3%に生じると言われ、米国では370万人以上が罹患し、女性が男性の20倍多いと言われています。

 この疾患の原因については未だ不明ですが、ある種のウィルス感染、免疫異常が考えられています。患者の多くは痛みの訴えと共に鬱状態になる事が多く、脳内の神経伝達物質のセロトニンが壊されるか、十分に働いていないのでは無いかという事も推測されています。

 何れにしても、患者の痛みを取るのに従来の痛み止めは効かない事が多く、薬物治療としては抗うつ剤が有効な場合があります。その他、ストレスを出来るだけ少なくする生活の改善も重要です。特に運動療法は推奨されており、最近英国の医学雑誌で運動療法が線維筋痛症に有効である事が報告されていますので紹介いたします。


***********************************


 136例のリュウマチ外来を受診した線維筋痛症の患者をウォーキング、トレッドミル、サイクリング、バイクエクササイズの有酸素運動プログラムを行ったグループと、リラクゼーションや柔軟体操を行ったグループとに分けて比較検討しています。全ての患者がこれらのプログラムを12週間に渡って、週に2回行い、結果を1年間追跡調査しています。

 その結果、有酸素運動を行ったグループは他のグループに比べ明らかに症状の改善が見られ、一年後には圧痛も減少しており、様々な障害の程度も改善されていたとの事です。

 線維筋痛症に限らず、あちこち痛いと訴えて引きこもりがちになる患者さんは多いのですが、これらの患者さんを適切な運動療法に積極的に参加させてあげる環境作りが重要であると感じています。

【文献: Richards SCM and Scott DL. Prescribed exercise in people with fibromyalgia: Parallel group randomised controlled trial. BMJ 2002;325:185(27 July)】

前号  次号