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 第54回 「パニック障害」

 今月は、超多忙な院長の命により、古女房兼相棒の私が担当いたします。院長には、最近数ヶ月の間にまさかの出来事が続いており、その奇跡的不思議に私は唖然とし、本人は「俺はもう長くないのかもしれない」などと言っております。次号をお楽しみに、で止めておいた方が良さそうですが、昨日の出来事は言わずにはいられません。何十年も、とても親しくしている家族の娘、いわば我が娘の結婚式に出席いたしました。受付を済ませ、新郎・新婦と写真を撮ろうとしていると、院長に駆け寄る男性がいて、お互いに久しぶりの再会の挨拶。院長が「Tさん、何でここにいるの?」と聞きますと、なんと新郎の父!!Tさんは、院長の大学勤務の時代、毎日の様にお会いしお世話になり親しかった方。梅雨の晴れ間の緑美しい、フォーシーズンズホテルでした。

 今回は、何の前兆もなく突発的にパニック状態を繰り返す病気、パニック障害(Panic Disorder)についてお話いたします。PDは、それほど稀な疾患ではなく、我々のクリニックでも時々患者さんが飛び込んで来られます。突発的に胸痛、動悸、息苦しさなどが現れ、患者さんは強い不安感に襲われ、時には死ぬのではないかとの恐怖にもさらされます。内科、耳鼻科、脳神経外科などを転々とし、救急車で運ばれる事もありますが、病院へたどり着いた時には症状が消失している場合も多く、心電図その他の検査に異常が見られません。

【症例 34歳 主婦】
 外出中に突然、動悸、息がつまり呼吸が苦しく、めまい、気が遠くなる感じが出現した。このまま死んでしまうのではないかと感じ怖くなり、救急車を呼んでもらい大学病院の救急室へ運ばれた。10分後、到着の直前に症状は治まり、心電図その他、緊急検査に異常が無く、医師からは心配無いでしょう、自律神経失調症でしょうと説明を受けた。1週間後、電車の中で同様の発作が起き、次の駅で降り、近くの診療所に飛び込んだ。この時も、症状は治まり、過呼吸症候群でしょうと言われた。ここ1〜2月で数回の発作を繰り返してからは、もしあの発作が起きたらと思うと不安・恐怖の為、一人で外出できなくなったと、ご主人に付き添われて来院。

【パニック発作の症状と診断】
 1)動悸、胸痛 2)息苦しさ、窒息感 3)めまい感、ふらつく感じ、気が遠くなる感じ
 4)吐き気、腹部不快感 5)震え 6)発汗、冷感、熱感 7)現実感消失(現実で無い感じ)
 8)死への恐怖など

 これらの症状が突然始まり、10分以内にピークに達し、60分以内に減弱する発作を繰り返す事。さらに、次の様な疾患が無い事を確実に鑑別診断する事が重要です。
 狭心症、心筋梗塞、甲状腺疾患、カフェイン中毒、側頭葉てんかん、喘息、低血糖、褐色細胞腫など

【パニック障害の原因と治療】
 呼吸や循環を調節する脳の特定の部位(脳幹、青斑核)が、何らかの原因で過敏状態となり誤作動し、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質が多量に放出される為と言われています。サルの青斑核を電気刺激すると、ヒトのPDと同様の症状が認められ、ある種の抗うつ剤、抗不安薬がこの青斑核の活動性を低下させる事が証明されています。実際、これらの薬の組み合わせにより発作を予防する事が出来ます。パニック発作を繰り返す事により、予期不安のため電車に乗れない、外出できない状態となり、さらにうつ状態に陥る事もあり、早期診断と治療が大切です。パニック発作では決して死なない事、この病気は気のせいではなく上記の様なメカニズムによって起こるであろう事、薬により発作を起きない様にする事が出来る事など、患者さんにじっくりお話しすると多くの方々は良くなって来ますが、精神科や心療内科の先生に紹介し、受診して頂く事を原則としております。

<ヒロオカクリニック 副院長 弘岡順子先生>

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