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 第66回 「睡眠時無呼吸症候群」

 最近女子高生のルーズソックスを見かけなくなったと思ったら、男子生徒が徘徊ボケ老人の尻までずり落ちたパジャマのようなルーズズボンで歩き回っています。男子のズボンがずり落ちた分、女子のスカートは益々ずり上がり、トン足のような足を露出し、恥も外聞もあったものではありません。駅の階段を上がる際には、脱糞を我慢するかのごとき風情で、尻のあたりを片手で押さえ昇って行きます。

 電車内でのあたり構わぬ化粧もとどまるところを知らず、ヤットコか小型のバリカンのような器具が次々とバックの中から現れ、目張りを入れたり口紅を描いたりと忙しい事です。化粧品会社もタバコ会社に倣い「健康のため、世間のため車内での塗り過ぎに注意しましょう。」と言う一文をパッケージに入れたらどうかと思います。「服装の乱れは生活の乱れの始まりである。」と、昔あまり偉くない校長先生が朝礼でおっしゃいましたが、学校の教師は一体何をしとるんじゃい!

 あまりカッカすると血圧が上がるので、ここは一つ車内の多くのオジサン達に習い、静かに目を閉じ到着駅まで乗ることにします。ところで何と無防備に大口を開け、眠り呆けている人が多いことでしょう。中には車両中に響き渡る大イビキをかいている御仁もいます。そこで今回はイビキに関するお話を致します。

 外来で患者さんを診察し、「他に何かありませんか?」と質問すると、「実は主人のイビキで眠れず困っていますが、時に息が止まっているようで心配です。何か調べる方法はありますか?」と言う質問や、「夜キチンと寝ており、睡眠時間は充分なのだが、昼間眠くてしょうがない。」と言う訴えを耳にします。最近これらの訴えは、睡眠時無呼吸症候群という疾患が原因となっている事が判ってきました。数カ月前に新幹線の運転手が運転中に寝てしまい、危うく大事故になりかけたニュースがマスコミで騒がれ、この疾患が広く認識される事になりました。我々の所では睡眠時無呼吸症候群の診断に、早くから取り組んでいますが、この事件の報道以降、瞬く内に検査の予約が秋まで一杯になってしまいました。

 さて、睡眠時無呼吸症候群は、Sleep Apnea Syndorome の頭文字をとって SAS と呼ばれます。SAS は我が国では人口の1〜2%の頻度で生じ、約120万人が罹患していると考えられています。SAS は一般に睡眠中に10秒以上持続する無呼吸が、一晩に30回以上あるものと定義されていますが、我々の患者さんの中にも60〜90秒近くも呼吸が止まり、ヘモグロビン酸素飽和度と言う簡便に体内に取り込まれた酸素を調べる方法でも20%も酸素飽和度が低下した方がいます。この間に脳を始めとした全身臓器が酸欠状態になるわけで、検査結果を見て患者さんも主治医もぞっとしてしまいます。SAS は低酸素血症を起すため様々な生活習慣病を合併すると言われ、高血圧症が2倍、冠動脈疾患が3倍、脳血管障害が4倍の頻度で生じると言われています。たかがイビキと高をくくったり、いつも高イビキの亭主は大物だなどと思っていると、取り返しのつかない事になる場合もあるのです。また無呼吸の反復が熟睡出来ない事や不眠の原因となり、昼間の異常な眠気を催します。SAS の患者は一般ドライバーの7倍の交通事故発生率と言われ、大きな社会問題にもなっています。

 SAS の原因で最も多いのは閉塞型と言われるタイプです。ノドチンコに続く上あごの軟口蓋や、肥大した扁桃腺、アデノイドの過形成、上向きに寝た状態でノドの奥に落ち込んだ舌根、肥満で沈着した脂肪組織などと、咽頭の後ろの壁との間の空気の通り道が狭くなった上気道狭窄の他、生まれつき小さなアゴの人、太くて短い猪首の人など、上気道の形態的問題がある人に起こります。閉塞型の特徴はイビキですが、これは狭くなった気道を通過する時に生じる呼吸音です。無呼吸状態では血液中の酸素低下と炭酸ガスの増加が起こり、これが刺激となって、脳に伝わり呼吸をするように命令が下されます。中々呼吸が再開せずに持続すると、最終的に脳を覚醒させる大きなググッという大イビキと共に呼吸が一時的に再開されますが、しばらくするとまた無呼吸になってしまいます。

 閉塞型の他には、脳の運動中枢に問題があり、呼吸筋が運動停止するために生じる中枢型、中枢型から閉塞型に移行する混合型と言うタイプもあります。これらの異常にアルコールの摂取や睡眠薬の服用が作用して、無呼吸を助長します。

 次回は無呼吸の診断法と治療についてお話します。尚、
ヒロオカクリニックのホームページでも、無呼吸担当ナースが簡単に解説しています。ご参考ください。

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