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 第67回 「睡眠時無呼吸症候群-2」

 寄席で名人が登場すると「いよー待ってました。たっぷり!」という掛け声が掛かるそうです。お盆が近づいてきましたが、お経の最中に「たっぷり!」と声を掛けたらどうなるのでしょう。
 お坊さんは読経を続けながら、円楽師匠のような厳かな声で「あい判った。」等と言うのでしょうか?それとも後ろを振り向き、木久蔵師匠のような声で「延長料金を頂きます。」等と言うのでしょうか?はたまた笠智衆の御前様のように「だまらっしゃい!お経を何と心得る。喝!」等と怒るのでしょうか?
 不謹慎ながら一度試してみたいと思っています。それからもう一つ、足がしびれる退屈なお経の時にはキンチョー蚊取りの爺さんのように「つまらん!おまえの経はつまらん!」と大声を出したくなる欲望に駆られる事があります。仏様、ご免なさい。合掌

 さて、今月の医療情報では先月の続きで、夜間無呼吸症候群(SAS)の診断と治療の話しです。SASの原因で最も多い閉塞型は、扁桃腺やアデノイドが肥大化して空気の通りを狭くしてしまう事が原因の一つです。これらの症例は、まず耳鼻咽喉科を受診して、肥大した扁桃腺やアデノイドの切除手術や、鼻呼吸を妨げている鼻タケや副鼻腔炎、鼻中隔彎曲の手術によってSASが改善するか診断してもらいます。

 また上向きに寝ると舌根が落ち込み、気道を塞ぐ症例では、口腔内の形成手術が有効な場合もあります。比較的希ですが、生まれつき下顎骨が小さく舌が落ち込み易い症例では、舌を前方に保持する口腔内装具をつける事により、SASが改善する事もあります。外来で多い肥満者の無呼吸症例は、肥満の為脂肪が気道を狭くしている事が原因なので、食事制限、積極的な運動療法で減量をはかる必要があります。

 さて、睡眠時無呼吸は、夜間に10秒以上の呼吸停止が1時間に5回以上ある事と定義されますが、実際に上向き、横向き等、どの姿勢で寝た時に何秒間、どれくらいの頻度で呼吸が止まり、その時血液中の酸素がどの程度低下するかを正確に診断する必要があります。また脳に問題がある為に無呼吸になる中枢性のSASも正確に鑑別しなければなりません。

 厳密に言うと、SASの診断は睡眠障害センターを持った病院に入院して、睡眠中の脳波、眼の動き、筋電図、各種呼吸機能、心電図、血圧、脈拍、血液中の酸素飽和度をモニターし、耳鼻科医、呼吸器内科医、精神科医、循環器内科医が連携して、総合的判断で診断してもらわなければなりません。しかしながらこれは大掛かりで、入院検査となると患者さんの負担も大きく、多忙な人にとっては大変です。幸いな事に最近、比較的簡便に、自宅での睡眠時に各種の呼吸情報をモニターする事が出来るシステムが開発されました。

 我々の施設でも行っている、携帯型睡眠ポリグラフという機械を用いた検査法です。この検査で無呼吸指数という治療の目安を決めて、それぞれの人の治療法を選択しています。

 SASの治療法は先に述べた手術や口腔内装具、減量の他に薬の治療が試みられていますが、効果や患者の負担などの面で一長一短があり、広く行われるには至っていませんでした。しかしながら最近、特に閉塞型の症例に有効な治療法が普及してきました。それは在宅持続陽圧呼吸療法(CPAP)という治療法で、寝ている間にマスクを通じて鼻から一定の圧で空気を口腔内に送り込み、閉塞し狭くなった気道を押し広げる治療法です。CPAP法は健康保険も適応され、現在、中等度以上(無呼吸数が1時間に40回以上)の症例では、第一選択となっています。マスクをつけたまま寝るのに、最初は抵抗感を持つ方もいますが、次第に慣れ夜間無呼吸の為、日中居眠りが多くぼんやりして不良社員のレッテルを貼られた人が、CPAP治療後、すっきりした表情で外来に現われ、「おかげさまで優秀社員と言われるようになりました。」と報告してくれました。今後さらに普及すべき治療法だと思います。

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