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 第68回 「健康食品の効用」

 今年の夏休みは、30年前の新婚旅行先である奥志賀高原を訪れました。昔そのまま変わらぬホテルに泊まり、日本中が雨マークの中、奇跡的に快晴の奥志賀でトレッキングを楽しむ事にしました。数日来の雨で道は一部ぬかっていましたが、爽やかな高原の風が白樺林を吹き抜けて、絶好の日和です。トレッキングシューズで完全武装し、結構険しい山坂を息せき切って登っていると、上の方から子供の声です。やがて父親に手を引かれたオムツの子供がニコニコしながら下りてきました。こちらは上級コースと思い、気合いを入れて登っていたのにガックリし、急に足が重くなりました。「山道をオムツで歩くのはやめましょう。」

 気を取り直して今月の医療情報です。

 新聞の折り込み広告やテレビの通販番組を始め、様々なメディアを通じて各種健康食品やサプリメントの宣伝合戦が華やかです。最近、「これを飲めばガンが治る!」等という健康食品の誇大広告の規制に、ようやく厚生労働省が乗り出しました。この種のものに関しては、あまり聞いた事の無い国内外の医学、薬学博士の大先生や、畑違いの大御所らが推薦文を書いたりしていますが、素人には難しいカタカナ専門用語で効果を説明されると、何となく納得し、経験者の使用前の悲壮な顔と使用後の晴れ晴れとした顔写真を比べたコメント等を見せられると、つい「試してみようか」と言う気にさせられます。

 これらの健康食品は代替医療として用いられ、実際に効果が認められている物から、眉唾物まで様々です。数多いサプリメントの中で、抗酸化作用ビタミンとされるβカロチンとビタミンEは、心臓血管病の予防に役立つとされ、あのミノモンタ先生もイタチの様なもっともらしい顔をして推奨していましたし、医療現場で医師も服用を勧めてきました。

 しかしながら、こういったビタミン剤は、動物実験である一定の評価がありますが、実際にヒトが長期間服用して本当に効果があるのかどうかは、科学的根拠が明確ではありませんでした。最近ランセットと言う権威ある医学雑誌で、これらのビタミン剤が果たして実際に効果があるのかという興味深い研究結果が報告されましたので、紹介します。

 これは有名なクリーブランドクリニックという米国の医療施設で行われた、大規模臨床分析という手法で、多くの対象者にサプリメントを服用してもらい、服用しなかった対照者の群との比較を統計学的に分析したものです。

 従来βカロチンは活性酸素によって酸化した過酸化脂質を消去し“悪玉コレステロール”を減らす効果があり、その結果動脈硬化、狭心症、心筋梗塞を予防すると言われてきました。ところが今回の研究では、13万8千人を対象に4〜6年間、βカロチンの投与が行われた群が、対照群に比較して全体の死亡率がむしろ高く(7.4%対7.0%)、心臓血管病による死亡率も高い(3.4%対3.0%)事がわかり、βカロチンがこれらの疾患の一次、及び二次予防に効果が無い事が示されました。またビタミンEに関しても同様に8万2千人を対象とした試験で、ビタミンE投与群と対照群の全体の死亡率がほぼ同じ(11.3%対11.0%)であり、心臓血管由来の死亡率も両群で全く同じの6%であり、ビタミンEの効果を示す結果には至りませんでした。この研究結果は抗酸化ビタミンの効果を信奉する研究者や服用者を失望させるものであり、色々反論の議論が起こるものと思われます。

 しかしながら、旗色ははっきりしつつあるようです。すなわち最近出されたビタミン補充療法に関する U.S. Preventive Services Task Force Guidelines と言う米国の国家戦略とも言える指針でも、今回の研究結果と同じく、心臓病に対する抗酸化ビタミンの効果に否定的な立場です。

 また、2年前に米国の権威ある医学雑誌、New England Journal of Medicine において、狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患の既往症のある人にβカロチン、ビタミンC、ビタミンE、セレン等の薬剤を3年間投与した所、再発予防効果が無いばかりか、スタチン系と言う最もコレステロール低下作用があり、世界中で最も使用されている動脈硬化の予防薬の効果を弱めてしまったという驚くべき結果が発表されています。これらの結果はサプリメントとしてこれらのビタミン剤に頼るのではなく、これらの天然ビタミンが含まれている緑黄色野菜、植物油、ナッツ類、魚等をバランス良く摂取する事が重要であり、偏った食事や毒性の強い過酸化脂質を作る喫煙や多量の飲酒などの生活習慣の修正が重要である事を示唆するものであると思われます。

 動脈硬化症の心臓病に対する抗酸化ビタミン効果の仮説によって、サプリメントビジネスの各会社は巨額な収益をあげて来たのですが、今後どのような戦略を練るのでしょうか?興味あるところです。

【文献: Vivekanantban DP et al, Use of antioxidant vitamins for the prevention of cardiovascular disease: Meta-analysis of randomised trial, Lancet 2003 Jun 14;361:2017-23】

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