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 第77回 「痛 風」
 私達のクリニックは新宿のど真ん中にあり、様々な患者様が来院します。ちょっと怖いところでは、黒鉄ひろし氏言うところの頬に人差し指でスーと線を描く業界のお兄さんが、小指をつめて切断端の処置にやってきます。またある時は、薬かアルコール中毒か判りませんが、訳の判らない事を怒鳴りながら、私の襟をつかんで殴ろうとする格闘技系の患者様もいらっしゃいます。さすがにこの時は身の危険を感じましたが、警官隊が8名ほど駆けつけてくれ、患者様を抑制具のようなもので簀巻きにして連れて行ってくれました。

 最近の出来事では、近所の飲食店のおばあちゃんが道路で倒れているのを町内の人が発見して家に担ぎ込み、「大変だぁ〜」と言う事で往診を頼まれました。彼女は糖尿病があり、インスリン注射をしていたのですが低血糖発作を起こしたのです。低血糖の診断は、血液中の糖の値が60mg以下の場合を言いますが、彼女の場合は26mgしかなく、直ちに糖分を摂取させなければ危険です。到着した救急隊員と部屋の冷蔵庫を開けたり家中探しましたが、適当なものがありません。家族に砂糖か飴があればすぐ持ってくるようにと頼んだ所、「わかりました!」という返事があったものの、一向に頼んだ物がやって来ません。10分ほどたって茶碗いっぱいの砂糖が届けられ、目を白黒させているおばあちゃんの口に押し込んで事なきを得ました。後日、なんで砂糖が遅れたのか聞いたところ、お嫁さんが恥ずかしそうに白状しました。お嫁さんはすぐ居間においてある缶の中に飴があったのを思い出し、急いで取りに行きましたが、缶のふたを開けると何時の物か判らない立派な男根の形をした「さずかりアメ」という縁起物のアメが缶の中に鎮座していたそうです。お嫁さんは男根の形のアメをお姑さんにしゃぶらせていいものか、オロオロして迷っている内に時が過ぎて遅れたと言うのです。遅まきながらそれに気づいた御亭主が、慌てて茶碗に砂糖を山盛りにして届けてくれたのでした。

 今度からもっと見栄えのいいアメを常備するように、厳重に申し渡したのであります。


 
さて今月の医療情報です。

 ビールが美味しい季節になりました。会社帰りに焼き鳥にビールはこたえられませんが、連日続けていると夜中に突然足の親趾の付け根が赤く腫れ、足を取ってもらいたい程の痛みに襲われます。これが典型的な痛風発作です。痛風は今日では比較的ありふれた病気で、会社でも一人や二人は持病にしている人がいると思います。ところが驚く事に、1959年以前には我が国では86例しか報告されていない稀な疾患でした。痛風はヨーロッパの貴族に多かった事から贅沢病とも言われ、戦後の貧乏な日本人には少なかった訳ですが、GDPが世界第2位の飽食の時代の現在では、30〜60万人の患者がいると推定されています。

 痛風の原因は、飲食物に含まれるプリン体(核酸)を多量に摂取する事によって、体内で増加した尿酸が血液中で過飽和の状態になり、針のように結晶化した尿酸ナトリウムが末梢の関節内に析出して関節炎を起こした状態です。炎症を繰り返している内に、組織に沈着して痛風結節と言う肉の塊の様なシコリが足の関節に出現します。

 血液中の尿酸値が上昇すると、痛風の発作を起こすだけでなく、腎機能障害や尿路結石を起こす可能性があります。また高尿酸血症は高脂血症や高血圧、内臓脂肪肥満(かくれ肥満)、耐糖能異常(糖尿病になりやすい状態)等の生活習慣病と共に、心臓・血管系の病気を起こす原因となります。

 痛風や高尿酸血症の予防は、先ず第一に生活習慣の改善が重要です。TVや新聞の医学記事で、ビールにはプリン体が多く含まれ焼酎には少ないとの情報を得て、予防の為に焼酎を飲んでいると言う患者さんがいて驚きました。アルコール飲料はプリン体を含まなくても、代謝を活発化させて血清尿酸値を増やすので、尿酸値の高い人や痛風の人では焼酎も量を過ぎれば危険です。血清尿酸値への影響は、日本酒では一合、ビール500ml、ウイスキー60mlぐらいから現れるそうです。禁酒日を週に2回以上つくる努力が大切です。

 食べ物では鳥、ブタ、牛のレバー。アンキモ、イサキの白子にプリン体が多いのは有名ですが、カツオや大正エビの他、白身の魚も日干しにするとプリン体が増え、秋刀魚やアジの干物や鰹節にも大変多く含まれています。それでは植物系は安全かと言うと、干し椎茸や乾燥大豆(きなこ)や納豆にも意外に多く含まれているので注意を要します。

 尿中に尿酸を出来るだけ多く排泄させる事も重要です。一日に少なくても2Lの水分摂取が勧められています。

 運動に関してはマラソンやラグビー等の激しい運動の後に、痛風発作が現れる事があります。これは過激な無酸素運動によって、体内のプリン体の分解代謝が活発になり、尿酸の産生が増加する為です。充分に水分の補給をしながらウォーキング等の有酸素運動を行なう事は、血液中の尿酸の値に悪影響を及ぼさず、他の生活習慣病の改善効果があるので積極的に行なうべきでしょう。

 血清尿酸値は7mg/ml未満が正常値ですが、痛風発作を予防する為には4.6〜6.6mg/mlに維持する事が重要です。生活習慣を変える努力をしても8mg/mlを超えたままの人は、病院で尿酸を下げる薬を処方してもらうと良いでしょう。

 
文献:高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン2002

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