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 第79回 「食事療法」
 猛暑の中、相変わらず忌まわしい事件が続発しています。住民が危険を何度も警察に届けていたにも関わらず、放置されて多数の犠牲者が出た新聞報道に腹の虫が治まりません。今や日本は法治国家ではなく放置国家です。もうお上には任せておけません。必殺仕置き人でも、黄門様でも、金さんでも、桃太郎侍でも、暴れん坊将軍でも、鞍馬天狗でも、銭形の親分でも、国定忠治親分でも、月光仮面のおじさんでも、七人のサムライでも、ラストサムライでも、誰でもいいから世直しを是非ともおねげえしますだ!

 さて今月の医療情報は食事療法についてお話します。

 わが国の肥満者は2,800万人を超え、糖尿病患者も2010年には1,080万人に達すると言われています。これらの疾患が増加する原因として、現代人の過食による摂取カロリーの増加、食事内容の変化と家庭や職場で歩行などの運動量の低下が考えられています。食事に関して、肥満者は早食い・どか食い・ながら食いの傾向があると言われています。ある雑誌に食品のサイズが1970年代から急激に大型化し、ハンバーガー、フライドポテト、コーラが発売当初の2〜5倍のジャンボサイズになってきているという記事が載っていました。確かにコンビニのおにぎりもメロンパンも巨大化しており、一個300〜400kcalのものが売られています。食品メーカーの戦略かどうか知りませんが、気が付かない内に巨大化した食品と共に、我々の体型が巨大化する可能性を心配する人もいます。

 ところで肥満の原因は、摂取カロリー増加という簡単な原因だけではありません。実際にわが国では摂取カロリーは、1975年をピークに減少傾向にあり、現在、日本人の1日の平均エネルギー摂取量は2,000Kcal強といわれています。摂取栄養素の割合は、動物性蛋白質と脂肪が年々増加し、炭水化物は減少しています。

 一方米国では男性は2,618Kcal、女性が1,877Kcalと増加の一途であり、栄養素は日本とは逆に、脂肪と蛋白質の摂取が減少して炭水化物が急増しています。このように米国とわが国との間で摂取カロリーの推移、栄養バランスの相違があるにも関わらず、両国で共通して肥満、糖尿病が増え続けている事は、食事以外の要素である運動不足という共通の因子がいかに大きいかという事を考えさせられます。

 さて食事に限ってわが国の現状を細かく見ると、食べ方にも問題があります。時間に追われるサラリーマンは、昼食をゆっくり噛んで味わいながら食べる事が出来ず、短時間に噛まずに胃内に流し込む早食いの人が多いようです。カロリーが高く、消化吸収が良い食品を一気に大量に摂取する傾向にあります。あるTV番組でマッチョな外国人のタレントさんが、大きなキナ粉餅を一気食いで口いっぱいにほおばっていましたが、良い子の皆さんは決して真似をしてはいけません。

 栄養学では理想的な1日の食事は朝、昼、晩の3食とし、それぞれの摂取エネルギーが均等になるようにすべきと述べられていますが、多くの人は朝抜きで所ジョージのコマーシャルのように缶コーヒーやドリンク剤で済ませています。一食抜けば太らないと勘違いしている人もいます。ネズミの実験でも1日に同じ量の餌を食べさせても、それを一食で食べさせた場合と6回に分けた場合では、1回食の方がはるかに多くの脂肪が蓄積して肥満する事が判っています。特に朝抜きで昼は簡単な麺類で済ませ、夜に大量のアルコールと共にどか食いの人は危険です。

 さて、糖尿病や肥満の人の治療で最初に行わなければならない事は、上に述べた間違った食生活を正す事です。私達の外来でも看護士が患者さんの日常の食事内容を聞き取り、日本糖尿病学会の「糖尿病食事療法のための食品交換表」にのっとり食事指導をしていますが、指導直後にはうまく行っても長期的に効果を上げる事は容易ではありません。

 現在、世界中で多くのダイエットが試みられており、一般の人から最も多く支持されているのは、先日亡くなったアトキンス博士が1970年代に提唱した「低炭水化物ダイエット」です。一連の著作は1,800万部も売れたと言われています。このダイエットはわが国では低インスリンダイエットとして知られています。従来のダイエットでは制限されていた肉、魚、チーズ、卵などの高蛋白、高脂肪のものを中心に食べ、パスタやポテト、パンなどの炭水化物を制限するものです。美味しい物を制限されないので人気が出たのかもしれません。このダイエットに関して最近「New England Journal of Medicine」という権威ある医学雑誌に、低炭水化物食と低脂肪食とを比較した研究結果が報告されました。

 120人の高脂血症を有し平均BMI34の肥満がある他は健康な人を対象に、低脂肪食と低炭水化物食のグループに分けて見ると、24週で体重が10%減少する割合が低炭水化物食61%に対し低脂肪食23%で、明らかに低炭水化物食に軍配が上がりましたが、最も重要な悪玉コレステロールのLDLコレステロールの値は両者で変わりませんでした。また日本ではあまり見かけませんが平均BMI43の超肥満の患者に関する試験では、6ヵ月の時点で低炭水化物食のグループが低脂肪、低カロリー食グループに比べ、より優位に体重の減少を来たしましたが、一年後では両グループに差が無くなったと言っています。この理由として、低炭水化物食がある時点で効果が留まり一定になるのに対し、低脂肪食はその後も体重減少が継続するためだと述べています。

 多くの議論があるアトキンズダイエットですが、炭水化物を取り過ぎる食生活はもちろん是正すべきですが、低炭水化物食の副作用として便秘、頭痛、口臭、筋肉の痙攣、下痢、衰弱、湿疹などが報告されています。肥満者や糖尿病などの生活習慣病は、コレステロールが高い高脂血症を合併している事が多く、そのため動脈硬化が進展して心筋梗塞や脳梗塞にいたる危険があります。高脂肪食を取り続けていると高脂血症になる事は明らかであり、心筋梗塞の原因となる多くの科学的データがあります。

 ダイエットは極端に走らず長続きする事が重要です。幸いな事に日本食は塩分が多い事を除けば、食物繊維も豊富で血糖値の上がりが少ない(グリセミックインデックス)の低い食事です。三度三度の腹八分のご飯とバラエティに富んだおかずと、適量のお酒で、適度な運動を楽しむ生活であれば問題なしです。

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