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 第94回 「サプリメント」

 先日“ALWAYS三丁目の夕日”と言う映画を観ました。昭和21年生まれの小生は、まさに鈴木オートの一平少年と同じ時代を過ごし、同級生と言う事になります。家にテレビが来た日に近所中が大騒ぎになるシーンがありましたが、我が家も全く同じでした。
 何と旧城主の殿様(ふうてんの寅さんの映画で荒寛十郎が殿様役を演じた実在のモデル)が執事(三木のり平が演じたモデル)を伴って我が家においでになり、祖母は朝から座椅子や脇息や上等な座布団の手配でおおわらわです。テレビを備え付けた座敷で殿様の後ろで我々家族が正座し、集まってきた近所の人たちには庭にゴザを敷いてもらい、そこで大相撲を観戦したのです。小雪に似たお姉さんもどこかにいたような気がする50年前にタイムスリップした感動の一時でした。

 
さて、今月の医療情報はサプリメントのお話しです。
 
 
医療費は30兆円を超える勢いです。高齢者の医療費はますます増加を続け、政府は医療費抑制策の一つとして医療費の患者負担増を目論んでいます。健康に対する費用も家計を圧迫して大変です。ところで抗加齢やがん予防を唱う健康食品産業は2兆円規模になったそうです。新聞や雑誌では健康食品、サプリメントの広告で溢れています。これらの中には「毒にも薬にもならない」怪しげなものから、科学的にある程度の効果が認められているものまで玉石混合の状態です。ところで私たち医者が病院で処方する薬は、全て動物実験を始めとする様々な基礎研究で効果と安全性が多くの時間をかけて確認され、大規模な人を用いた臨床試験に合格しなければなりません。そして健康食品とは比べ物にならない厳しい厚生労働省の審査を経た後に、健康保険の収載薬として世に出ます。

 医療機関において各種ビタミンやミネラルは、主にそれらの欠乏症に対して健康保険の適応薬として処方されます。例えばビタミンB12欠乏による悪性貧血に対してはビタミンB12、骨粗鬆症にはカルシウムやビタミンD等が投与されています。これらの病院で処方されているビタミンやミネラルは、一般薬局や通販で皆さまが購入しているサプリメントよりも高容量のものが投与されており、効果が認められています。それでは皆さまが高いお金を出して飲み続けている市販のサプリメントの効果は、果たして本当にあるのでしょうか?

 最近英国のBMJという権威ある医学雑誌に、高齢者の感染予防に対する総合ビタミンとミネラル投与の効果を調べた論文が発表されました。この研究は無作為化、二重盲検、プラセボー対照試験と言う統計処理が行われており、科学的に信頼度の高い論文です。

 呼吸器感染や泌尿器の感染症は、高齢者が医者を受診する最も一般的な疾患であり、加齢は免疫機能の調整力を低下させる事が判っています。英国の高齢者を対象にした食事と栄養の調査では鉄、ビタミンC、チアミン、ビタミンD、リボフラビン等の多種の栄養素欠乏が認められており、少なくとも25%の高齢者が総合ビタミンやサプリメントを摂取していると言われています。そこで、果たしてこれらのビタミンやサプリメントが有効かどうかと言う事をスコットランドのアバディーン大学が住民を対象にして行った研究です。

 試験開始前までにビタミンやミネラルを摂っていない65歳以上の男女910人に一年間、市販されている容量の総合ビタミンやミネラルのサプリメントを毎日摂取してもらい、対照群にプラシーボ(偽薬)としてブドウ糖から出来たソルビトールが毎日投与されました。

 一年の間に、これらの高齢者が感染症に罹患して医者などを受診したかどうか、対象者への電話連絡や自己報告で感染症に罹患した日数や、健康に関する生活の質がどの程度低下したかという事を調査し、感染症に罹患した場合は、抗生物質をどの程度服用したか、入院の回数や期間はどの程度であったかという事を病院の記録から調べました。そしてその結果から、総合ビタミンとサプリメントの感染症予防効果の有無を検討したのです。その結果総合ビタミン、サプリメントを摂取した群と、ソルビトールを摂取した群でいずれの点においても有意差が出なかったのです。この結果からビタミンの補充は、栄養不良の程度が強く、食事もあまり取れない介護施設に入居している高齢者には有益かも知れないが、比較的健康な一般地域在住の高齢者ではあまり益は無いと結論しています。

 このほかフランスやオランダや米国からの疫学研究でも、65歳以上の高齢者に対する総合ビタミン・サプリメントの呼吸器などの感染症への予防効果は無いという結果が報告されています。これらの研究で、ビタミンやサプリメントの投与量をそれぞれの欠乏症に対して、医療機関で治療として処方される量に増量すればあるいは違った結果が出たかも知れませんが、残念ながら現在のところ有効性を支持するエビデンスは無いのです。

 広告に躍らされて高いお金を払い、エビデンスのはっきりしないビタミンやサプリメントの適当な摂取を続けるよりも、きちんと3度の食事を摂り、節酒、禁煙に努め、適度な運動を継続するという当たり前の事が、高齢者の感染を予防する上で重要であると思います。

【文献】

  1. Alison Avenell et al:Effect of multivitamin and multimineral supplements on morbidity from infections in older peple (MAVIS trial):pragmatic, randomized, double blind, placebo controlled trial. BMJ 2005 Aug 6;331:324-9
  2. Chavance M et al:Does multivitamin supplementation prevent infections in healthy eldery subjects? A controlled trial. Int J Vit Nutr Res 1993;63:11-6
  3. Graat JM et al:Effect of daily vitamin E and multivitamin-mineral supplementation on acute respiratory infections in elderly persons. A randomized controlled trial. JAMA 2002;288:715-21.
  4. Barringer TA et al:Effect of a multivitamin and mineral supplement on infection and quality of life. A randomised, double-blind. placebo-controlled trail. Ann Intern Med 2003;138:365-71

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