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 第85回 「肥満の解消」

 毎日寒い日が続いています。通勤時に見かける女子高生達は相変わらず短いスカートで通学です。私は以前このコラムで、駅の階段を上がるミニスカートの女子高生が脱糞をこらえるかごときの仕草で手を尻にあてて昇って行く事を批判し、世の末と嘆慨したのですが、最近考えを変えました。たまたま朝、着替えの時に下にズボンを履かず、上着だけ着込んでパンツで家の中をウロウロしていたのですが、その寒いの何の!とても我慢できません。思わずラクダを持てと叫んでしまいました。
 その点女子高生は寒風吹きすさむ駅のホームに、露出した素足で平気でたたずんでいます。これはスゴイ!あんたは偉い!!よっぽど気合いが入らないと出来ない相談です。可能ならぜひシベリヤやアラスカの修学旅行にもあのスタイルで行き、大和撫子の気合いを世界に見せつけてはどうかと思った次第です。

 さて、今月の医療情報は久々に肥満についてお話しします。

 本屋さんに行くと数多くのダイエット本が出回っています。また健康を売りにしたTV番組でも肥満についての話題が多いようです。

 肥満の指標は身長と体重から求められる
BMI (Body mass index)=【体重(kg)/身長(m)2】
で表され、肥満に伴う合併疾患が最も少ないBMI=22が理想体重とされています。

 ところで最近一部のメディアが「コレステロールは下げない方が良い!糖尿病、痛風の薬物治療は必要なし!」といった無責任な逆説的な主張を行って、国民に混乱を生じさせており、私達の診療の現場でも治療の妨げになっています。実は肥満に関しても彼らが好みそうなデータがあります。それは総疾患死亡率にみたBMIの関連で、男性はBMIが23〜24.9の小太りの男性の総死亡率が最も低いという成績です。この結果から逆説的に小太りの方が望ましいと結論づけられそうですが、よく考えてみると日本人には欧米のような超肥満の人はいません。日本人成人男性肥満者(BMI≧25の頻度)は28%であり、米国の肥満基準に相当するBMI≧30の人はわずか2.9%で、米国の1/10です。BMI≧25の人はそれほど多くなく、23〜24.9を母集団とする人が最も多くなるので、このグループ内の死亡者数が他のグループと変わらなくても、このグループ人数を分母にする死亡率が最も低くなる可能性があります。またBMIと総死亡の関係は、原因と結果が混在している可能性があります。

 すなわち癌や色々な消耗性疾患で死亡した人は痩せてしまい、BMIは結果として低くなりBMI≦18になる事も少なくありません。痩せているから病気になり死亡率が上がったのではありません。BMI<22にはこれらの要素も含まれる為に、相対的にBMI23〜24.9の死亡率が下がって見える可能性もあります。このあたりの解釈は、低コレステロール血症で死亡率が上がるという逆説議論と一緒です。

 前回もお話ししたメタボリックシンドロームという概念の中で、肥満症を考える必要があります。残念ながら日本人のデータの蓄積は少ないのですが、BMIが30を越えると高血圧が50%、高コレステロール40%、高中性脂肪40〜60%、糖尿病15〜20%と高い生活習慣病の合併が認められています。また心筋梗塞や脳血管障害による死亡率を見ると、男性ではBMI26.5、女性ではBMI25を越えると有意に危険度が増すことが報告されています。体型に関しては、異性に対する性的な好みでポッチャリ型が好きだの、貫録のある方がステキだの言う人がいますが、肥満傾向の本人にとって健康上良いことは何もありませんので、食事、運動を始めとした生活習慣の修正が必要になります。

 最近欧米ではmodification(修正)よりも突っ込んだTLC(Therapeutic lifestyle change)と言う概念で患者さんを指導しています。Therapeuticとは治療という事ですから、より強い教育的指導です。アメリカスポーツ医学会のガイドラインでは運動の頻度を5〜7日/週、一週あたり1,000〜2,000Kcal消費する運動を一日40〜60分(または20〜30分を一日2回)、一日あたり300〜500Kcal消費するやや低めの強度の有酸素運動を薦めています。

 簡単に言うと、食事などで摂取されたカロリーと消費されるカロリー(肺や心臓、脳、消化器、他の臓器を維持する事で費やされるカロリーの基礎代謝「男性1,500、女性1,200」と運動で消費されるカロリーに200Kcalを加えたカロリー)の差が大きければ肥満症が発生する事になります。基礎代謝は一定と考えると、摂取する食事のカロリーを減らし、運動で消費するカロリーを増やせば良い訳ですが、実際には大変で肥満症の治療は最も困難なものの一つです。

 ところで、一生懸命に減量を心がけているのに中々体重が減らず、私は水を飲んでも太るとこぼしている人がいます。実際にはおかずが多かったり間食をしていたりする事がありますが、食事内容を全て書きだしてもらうと大してカロリーを摂取しておらず、運動も結構頑張っているにも拘わらず太っている人がいるのです。

 最近の研究から、一日の消費エネルギーの60〜80%を占める基礎代謝に異常があって、肥満する人たちがいる事が判って来ました。すなわち、脂肪の分解やカロリー消費の熱産生に拘わるホルモンや蛋白の機能異常が基礎代謝を低下させるという事です。例えば脂肪分解や熱産生には、交感神経系のβ3アドレナリン受容体が関係していますが、遺伝子異常でこの受容体が働かない人が日本人の三人に一人おり、この遺伝子が変異した人は基礎代謝量が200Kcal少ないと言われています。また熱の産生に関係する褐色脂肪細胞の特殊な蛋白の遺伝子異常によって、基礎代謝量が通常よりも300Kcalも少なくなり、この人達が日本人の25%に存在するという事です。また前回もお話ししましたが、一旦肥満ができ上がると血中にインスリンというホルモンが増えますが、このインスリンは脂肪細胞という脂のタンクに中性脂肪を取り込み、代謝されて出て行く“入りと出”のバルブを調節する働きをしており、高インスリン血症でバルブ機能がうまく機能せずに、あまりカロリーを摂取しなくても脂肪組織に中性脂肪がどんどん取り込まれ肥満する事が判っています。

 これらの異常のある人達はよほど食事制限をしてカロリー制限をしたり、より一生懸命に運動に励まなければ減量が出来ない事になるのです。肥満の皆さん頑張りましょう。

【参考文献: 日本人の肥満症 総合臨床 2004 Vol.53 No.2】

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