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 第86回 「ダイエット

 そろそろ花粉症の患者さんが外来を訪れます。隣の部屋のアレルギー専門外来で、バカ殿のお名前に似た患者様が呼ばれています。私は小さな声で「カッフンダ!」と独り言をつぶやいたのですが、いつもの様に看護婦達から白い目で見られてしまいました。気を取り直して行きましょう。今月の医療情報は各種ダイエットについてお話しします。

 外来で患者さんからダイエットや健康食品の相談を受ける事があります。この種の話はまさに玉石混合で、限りなくインチキに近い怪しげな物から一応、科学的裏付けが示されているものまで様々です。健康ブームで驚くほど多くの人がこれらのダイエットや健康食品に少なからぬ投資をしているにも拘らず、欧米や日本においては医学界は無関心を装い、糖尿病や肥満、高脂血症を専門とする医者がこれらの問題を真面目に検証してこなかったようです。これらを医学の本流から外れた学問的に低級な物として考えているのか、推奨している“学者”の多くが医者ではなく栄養学者や薬学者である事から、実際に患者を見ている臨床医学と一線を画すべきと考えているのかも知れません。

 又、臨床医学で求められるEBM(Evidenced Based Medicine)「科学的証拠に基づいた医療」が欠如している事を問題視しているのかも知れません。実際に世界中で広く行われているアトキンスダイエット(低炭水化物ダイエット)について、私は色々な機会に専門家の意見を聞きましたが、よく知らないか全く問題にしていないかのどちらかで、明確な返答を得られず患者への相談に答えられずに困っていました。ところで最近米国ではようやく医学の専門誌で、これらのダイエット法を科学的に検証する研究論文が出始めました。

 アトキンスダイエットの提唱者であるロバート・アトキンス博士が、転倒事故で亡くなる直前に米国医師会雑誌(JAMA)で低炭水化物ダイエット(アトキンス)と低脂肪ダイエット(オーニッシュ)のそれぞれの論文をレビューし、総合的に評価する研究が報告されています。その中でアトキンス式の論文の数は2,600と多いのですが、残念ながら科学的分析に値する論文は極めて少なく、わずか4%に過ぎなかったと結論されています。世界的ベストセラーの素人向けの著作はともかくとして、学術論文で多くの医学の専門家を納得させられる科学的手法をとってこなかった事が、提唱後40年を経過しても医学界では受け入れられていない理由の一つであろうと推察されます。

 また米国の権威ある医学雑誌(New England Journal of Medicine)でもアトキンス式に関する論文が報告され、“短期的”には低脂肪ダイエットよりも減量効果が大きく、コレステロールの低下も差がないとしていますが、6ヵ月後には体重が増え始め、1年後には低脂肪ダイエットと同じになる事が示されています。

 この様に米国では、次第にそれぞれのダイエットの効果を客観的に科学的に検証しようとする研究が始まりつつあります。新しいところでは今年の一月号の米国の内科雑誌に載った論文です。

 米国でも商業ベースの減量プログラムは大人気ですが、それらの効果は主催者が謳うほどにははっきりしません。そこで著者らは各ダイエット法の効果を様々な方法で比較検証しています。まずいくつかの減量ウエブサイトの会社の代表者と実際に議論したり、MEDLINE(インターネット医学検索)を利用して12週以上にわたる減量のランダム化比較試験(医学的に薬物などの効果を科学的に判定するのに用いられる比較試験の一種)を行った研究や、1年以上の経過をみた症例報告の追跡調査のデータを調べ、幾つかの商業ベースのプログラムと2つのNPOが主体となった自己救済プログラムに焦点をあてて、それぞれの効果のエビデンスを体系的に分析しています。

 その結果2〜4年間、症例を追跡調査した超低カロリーダイエットOPTIFAST式では、5〜15%の体重減少が認められています。またランダム化比較試験が行われた唯一の商業ベースプログラムであるカウンセリングと食事制限を組み合わせたWeight Watchersでは、プログラム参加者は一年後に対照群よりも体重減少を認めています(5.3%対1.5%)。一方唯一の商業ベースのインターネットによるランダム化試験(eDiet.com)では、試験開始一年後の体重減少が通常の体重減少行動マニュアルによって治療されたものより効果が低かったそうです。

 NPOのOvereaters Anonymous(匿名の過食者)と呼ばれる自己救済プログラムに関しては、効果を示す文献は見当たりませんでした。またTake Off Pounds Sensiblyと呼ばれる週ごとの体重変化をみたプログラムでは、各メンバーが6ポンド(2.7kg)の減量に成功しています。費用対効果を見ると、超低カロリーダイエットが最も費用がかさみ自己救済プログラムが最も安価であったそうです。

 このように報告されたエビデンスは限られたものですが、いくつかの商業ベースプログラムと自己救済減量プログラムが減量に有用である可能性を示唆されています。しかしながら同時に「万能薬というものはない」という事も強調されています。

 実際に最近のアトキンス(低炭水化物)、ゾーン(最大栄養バランス)、オーニッシュ(低脂肪)、ウェイト・ウォッチャー(カロリー制限)などの有名なダイエット法を比較したJAMA2005年1月号の論文では、ダイエット開始一年後の体重減少はプログラム継続者ではそれぞれ、アトキンス4.8kg、ゾーン6.0kg、ウィエイト・ウォッチャー4.9kg、オーニッシュ7.3kgと報告されており良好です。また同時に悪玉コレステロールLDLなどの心臓病の危険因子の減少も見られていますが、これらの体重減少は積極的かつ主体的に患者がプログラムを継続する事が最も関与しており、この継続する割合は60%程度と低い事が述べられています。またプログラムの種類による体重減少の差は統計学的に示されなかったという事です。何事も“継続は力なり”です。

【文献】
Tsai AG and Wadden TA. Systematic review: An evaluation of major commercial weight loss programs in the United States. Ann Inter Med 2005 Jan 4; 142:56-66

Dansinger ML, Gleason JA et-al. Comparison of the Atkins, Ornish, Weight Watchers, and Zone diets for weight loss and heart disease risk reduction: a Randomized trial. JAMA.2005 Jan 5;293(1):96-7

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