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 第91回 「冷房病」

 毎日暑い日が続いています。来院される患者さんの中には、クーラーのかけ過ぎによる、いわゆる冷房病や、お年寄りの患者で体の温度調節がうまく行かず体調を崩す人が少なくありません。ところで、冷房病は正式な医学用語ではありません。一般的に医療機関で用いられる疾患名は、学問的に症状や病態が体系づけられ、世界的に認められて初めて医学用語として用いられる事になります。

 冷房病はもともと、5月病や金欠病のような一種のマスコミ造語だったのですが、高温多湿で冷房に頼らざるを得ない我が国独特の生活、仕事環境の中で多く発生し、冷房が直接原因と思われる多彩な症状の総称です。よく見られる症状は下肢の冷感(ひえ)、下肢や全身の倦怠感(なんとなくダルイ)、疲れやすい、発熱の無い風邪症状、胃腸症状、肩こり、頭痛、膝、腰、肩、手などの関節痛、神経痛などです。これらの症状は部屋全体の温度の低下によって生じるものから、空調設備の近くの席で仕事をしていて直接冷たい送風を体に受けて生じる場合があります。室温に関しては27度以下になると症状を訴える人が出始め、25度以下になると冷房病を訴える職場数が急増すると言われています。

 ところで、冷房病の機序は必ずしも明確ではありません。低温環境だけが原因であれば冬場は皆冷房病になるはずですが、実際にはそうではありません。現在考えられている誘因に、暑い環境から冷たい環境への急激な外界温度変化に体温調節機能、自律神経機能が対応できないとする説がありますが、暑い環境には曝されず、一定の冷房状態だけが長時間持続しただけでも冷房病は生じます。体温は個々に異なり基礎代謝、皮下脂肪量、皮膚血管収縮の程度もまちまちです。手を握っても氷のように冷たい人から温かい人、平均体温が36.5度を超える人から35度台の人、いつも冷え性で悩んでいる人から全身がいつもポカポカして汗かきの人まで様々です。

 この問題をさらに複雑にしている要因に、快適温度が人によって微妙に異なる事や、我が国の夏特有の高い湿度との関係もあります。実際に湿度が低いと多少温度が高くても快適ですし、逆に湿度が60%を超えると室温が25度でも肌の表面が湿っぽく体熱が皮膚から放射されず不快です。

 また特に女性は、この時期極端に肌を露出したり薄着の傾向があり、外界温度が直接皮膚温に反映されやすい事も要因となります。室温が27度の状態で平均皮膚温度は軽装の場合、正装に比べ1度低下するという報告もあるそうです。冷房病の症状のある人は、少し厚着をしたり室温が25度以下にならないよう職場環境を整えてもらう事が重要です。クールビズが奨励されていますが、電力節減の観点からも行政は、室温28度をエアコン使用の目安にしています。

 体温は体の中で熱の産生と熱放散が、調節を保たれて維持されています。熱帯夜で大量に発汗して消耗し、食欲が低下するため朝食抜きで出勤すると、熱産生のエネルギーが充分補充されず体温が低下する事も考えられます。喫煙はニコチンの作用によって、末梢血管の収縮が起こります。サーモグラフィーという体表面の温度を調べる検査を行うと、一本のタバコで肩のあたりを中心にして急激に皮膚の血流が低下して、皮膚温度の低下が見られます。その他、喫煙はエアコンの乾燥した冷風とともに咽頭、気管支の炎症を起こす可能性もあり、冷房病の人は節煙を心がけるべきです。

 単に室温の低下だけでなく、直接に冷風が露出した肩にあたって肩筋肉が収縮して硬くなり、肩こりが生じた為に緊張性頭痛、肩関節痛を訴える女性の患者も少なくありません。私の外来では、このような患者さんの肩から頚部にかけてレイザー治療を行う事で肩、頚部の筋肉が柔らかくなり、筋肉内の血管が拡張して血流が改善し、症状回復に良好な効果を上げていますが、勤務中に冷房病で病院に行くのも大変です。肩に直接冷気が触れないように肩掛を用いたり、数時間ごとに肩凝り体操、肩のストレッチを行う事も対処方法の一つです。冷房病は人それぞれに誘因が異なりますので、個々に原因を突き止めて対処する事が必要です。

【参考文献:真夏の総合診療。JIM.Vol.14 No.7 2004】

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