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 第96回 「医療雑感」
 明けましておめでとうございます。

 今回は年の始めでもあり、私自身の反省も込め、私が日ごろ感じている医療の雑感をお伝えします。

 医師が「お医者さま」と言われ、特権者として医学・医療に関する知識を占有していた昔と異なり、最近はインターネットを通じて多くの人々が容易に豊富な医療情報を得る事が出来、テレビや新聞、雑誌などのメディアから好むと好まざるとに関わらず、溢れんばかりの医療、健康情報を共有する時代になりました。みのもんた先生の功績で、日本人は今や一億総健康評論家の感があり、中には外来で健康食品の効果を「えっ!テレビでやっているこんな常識も知らないの?」といって滔々と私にひけらかす御仁もいます。健康バラエティー番組で「実は恐ろしいシビレ!」等という半ば脅しのような放送の翌日には、朝起きた時に少し手がしびれたという事で「ネットで調べたのだが、自分は難病の多発性硬化症ではないのか心配だ!きちんと診断して欲しい。」等という難問をぶつけてくる患者様もいます。私達医療者は、これらの質問に単に寝相が悪くて手を圧迫して生じたシビレと思っても、出来る限り真摯に答える必要があります。マスコミにもてはやされる神の手医師の出現や、脅威の治療法や薬等で、すべての病気が克服される訳ではありません。医療に対する過度な期待や思い込み、誤解も診療現場を混乱させます。

 治療開始時の説明不足もありますが、高血圧や糖尿病が少し薬を飲めば治ると錯覚している人もいますし、一度薬を飲み始めたら一生飲まなくてはならないのでいやだと勝手に服薬を止める人もいます。これらの病気に対する薬は胃潰瘍の薬の様に治癒させるのではありません。血圧や血糖値を薬を飲んで正常に近く調節しているだけです。生活習慣を改善する事が第一ですが、何もしなければ一生高血圧や糖尿病が続くわけですから、薬を一生服用せざるを得ない事を理解してもらわなければなりません。

 わが国では風邪薬は、製薬会社のドル箱で数多くの薬が店頭に並んでいます。市販の風邪薬や他院で処方された薬を飲んだが、症状が良くならないので何とかして欲しいと来院する患者さんが少なくありません。安易な抗生物質の投与や風邪薬の服用で、10年前と比べても日本人の風邪が治りにくくなっている印象です。発熱は体がウィルスをやっつける防衛反応ですから、コマーシャル通りに直ぐ解熱剤を服用すると、いつまでも風邪のウィルスが体から退散せずに症状が長引くのです。先ず薬ではなくビタミンCをたっぷりとって安静にする事が先決です。

 「治癒の要諦は一に養生、二に看護、三に薬治である。」とは昔のフランスの偉い医学者の言葉ですが、これは現在でも医療の基本です。私達の体は基本的には正しい生活、食事をしておれば多くの病気はあえて健康食品やサプリメントを摂らずとも自然に回復します。また病は気からと言いますが、医療にはプラセーボー(擬薬)効果といって、鼻クソ万金丹でも薬と信じると、ある一定の効果がでる場合があります。健康食品を健康になると信じて服用すれば、たとえそれがインチキでも一時的に元気になったと感じてしまう所がミソで、一種のマインドコントロールにかかり、高い買い物をして後悔している人も少なくありません。過剰な医療健康情報を交通整理してまがい物情報を排除し、正確で安心できる情報を皆様に伝える事も私達の仕事であると思っています。
今年もよろしくお願いします。

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