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 第99回 「食事バランス」

 日本人が米を食べなくなってきました。米の生産量の減少もこの一因であり、国の減反政策に加え農民の高齢化と後継者不足が原因として挙げられています。一方、消費側の問題として厚生労働省の「21世紀における国民健康づくり」でも指摘されているように、日本人の食生活が第二次大戦以降50年間に「ご飯と漬物」の高塩分・高炭水化物・低動物性たんぱく質から、動物性たんぱく質や脂質の多い食事に変化しています。欧米化した食生活で感染症や脳出血などの疾患は減ったのですが、その代わりに心臓病、脳梗塞、糖尿病などの生活習慣病が増加し、特に糖尿病は過去50年間に罹患率が50倍にもなっています。

 私が子供の頃の典型的な食事は、朝食はご飯に味噌汁に納豆、夕べの残りの煮こごりに漬物。昼は海苔弁当に卵焼きと竹輪の煮物に煮豆、たくあん。夕食はカレーライスにラッキョウか福神漬が定番で、ご飯は必ずおかわりしていました。おやつはよその畑のトマトやきゅうり、サトウキビ、一寸贅沢をしてよそのお宅の柿やイチジクを失敬しておりました。友人達の家庭も同じようなもので、炭水化物たっぷりの食事でしたが、50名のクラスには肥満児は一人もおらず、1,000人を超える全校生徒にも太った子どもは1人しか思い出せません。腹持ちの良いご飯をたっぷり食べるとなんとなく元気が出て、おなかに力が入り、相撲をとっても負け知らずで、バナナのような良いうんこが出て幸せでした。

 最近、肥満、糖尿病が大人のみならず子供にも激増している原因として、ある研究者は「お米をはじめとした炭水化物の摂取が減り、動物性脂肪の摂取率が著しく増加したこと。」を挙げています。もちろん食事だけでなく運動不足もあります。私の少年時代は放課後は野球やチャンバラで駆け回り、夏は一日中、川で泳いでいましたが、今やそんな子供は落ちこぼれになり、良い子は皆一日中お座りしてお勉強です。大人も徒歩や自転車がスーパーカブ号になり、リヤカーがダイハツミゼット、スバル360からカローラになりました。私が医者になった大阪万博の頃は、車を持った研修医はまだ珍しく“愛のスカイライン”に乗った同僚を羨ましく思っておりましたが、あっという間に日本は車社会になっていました。車の台数の増加に比例して肥満、糖尿病患者が増加していることは、良く知られている事実です。またTVを観ている時間が一日2時間長くなる毎に、肥満の発生率が23%、糖尿病の発生が14%高くなることや、コンピューターの前に座りっきりの人に、この生活習慣病が増えていることも報告されています。

 さて、食事の話に戻ります。生活習慣病を予防するという謳い文句で様々な健康食品やダイエット法などのヘルス・ビジネスが花盛りです。その代表格の「低炭水化物ダイエット」であるアトキンスダイエットにも問題があることは以前にもこのコラムで述べました。トロント大学のジェンキンス博士が述べた「糖尿病を治療する上で重要なのは糖質を制限することだ。」という説も誤りであることも分かってきました。

 わが国の糖尿病の権威である河盛教授は「糖質だけが体の中を制御しているわけではなく、脂質も蛋白も影響しており、それ以外にも運動で制御されているため、何を食べたら悪いというのではなく、どのような頻度で、どの程度食べるか、肉や脂を控えて3度3度バランスよくきちんと食べ、間食を控えることが重要である。」と述べています。また病院の糖尿病食は、小麦粉からできたパンや麺が消化が早く腹持ちが悪いので、その分おかずが増えてしまうのに比べ、ご飯は難消化性でんぷんで腹持ちが良く、エネルギーも抑えられて全体のバランスも良くなるので、主食としてたっぷり摂るように変わってきました。

 結論として言える事は偏った食品の制限は誤りであり、日本人が食文化の中で培ってきたバランスが重要であると思います。コンビニには美味しそうなお菓子やアイスクリーム、色とりどりの飲み物がずらりと品揃えで私も思わず誘惑に駆られます。運動の後にはサウナに入り、渇いたのどを潤す為に大ジョッキのビールを飲んでいる人をフィットネスジムでよく見かけます。また運動の後にお腹が空くからといって、汗を流した後に数個で300〜400カロリーにもなる高脂肪、高カロリーのチョコレートを口の中に放り込み、せっかくの有酸素運動の効果を台無しにしている人もいます。

 肥満、糖尿病の食事、運動療法は言うは易しですが実行はなかなか大変です。欲望を抑える自制心を養う努力も必要のようです。

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