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 第100回 「規制緩和」 

 このコラムも100回目を迎えました。毎月9年間書き続けた事になります。あまり話題になることも無い地味で退屈なコラムだったと思いますが、万が一にもお読み頂いた方がいらしたら心より感謝いたします。さて、管理人さんが100回でキリが良いのでここいらで、打ち切りにしましょうというお話を頂きました。と言うことで今回は最後の医療情報という事になります。

 
私たちのクリニックは何でも屋の“コンビニよろずクリニック”を自称しておりますので、脳、心臓、胃腸、骨折、性病、ED、水虫、ハゲに至まであらゆる患者様を診ております。そこでこのコラムも多彩な内容になりましたが、私自身が生活習慣病の予防と治療をライフワークにしておりますので、高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満などの話題が多くなりました。

 これらの疾患は生活習慣の軌道修正が最も重要であり、各種ダイエットや健康食品を利用されている方も多いのですが、中には間違った素人療法で大金を払って、逆に体調を崩した人も少なくありません。

 ところで4月5日発行のニューズウィーク誌の「食と健康の新発見にご用心」という記事でも取り上げられていましたが、今や日本のみならず米国でも医学や健康記事が連日、TV、新聞、雑誌に満ち溢れており、現在では80年代の4倍になったと伝えています。洪水のような医療・健康情報の中で、ある健康食品が癌の予防に良いと宣伝された翌日には、全く効果が無いという記事が出たりすることも稀ではありません。栄養学者や医者(あまり一流の人は見かけませんが)が、もっともらしいお墨付きの推薦をしたりすると「一丁、試してみるか!」という事になります。果たしてこれらの健康食品は、国が効果と安全をきちんと責任を持って保障してくれているのでしょうか?

 健康食品は法令上規定された食品ではありませんが、その内の「特定保健用食品」と言われるものは、一応その条件をある程度満たしており、厚生労働省が生理的機能や有効性、安全性を審査して許可・承認しています。これには従来からの栄養改善の特別用途食品、清涼飲料水、食用油など食品の形態を示したものや、錠剤、カプセルなど500品目があります。その他、科学的根拠が明らかではない多くの「条件付き特定保健用食品」や「栄養機能食品」という、定められた成分が規定量含まれると認定されるビタミンやミネラル、魚や果物のエキスをカプセル状にして効果も安全性も確認されていない「いわゆる健康食品」が市場に出回り、皆さまの口に入っています。最近電車内の広告で“コエンザイムQ10入りお酒”などという健康酒?を見かけて驚きました。どこに分類されるのか判りませんが、タバコ並に飲み過ぎは健康を失う恐れがあるという警告文をラベルに書くべきでしょう。

 小泉政権の規制緩和で後押しされたサプリメント市場は、1兆2千3百億と言われ、インターネット、通信販売を入れると2〜3兆円市場とも言われています。ヘルスビジネス業者はホクホクで長者番付の常連ですが、宣伝の叶姉妹の巨大な乳房に惑わされてはいけません。

 規制緩和も良いことばかりではありません。最近のマンション耐震偽装事件では、官から民への耐震構造審査の移行が本質的な問題として挙げられています。私たちの医療分野にも規制緩和で近い将来、米国のチェーン病院や営利目的の保険会社が参入してくるものと危惧されていますが、その前哨戦として米国からの市場開放ビジネス拡大要求により、小泉政権が“健康”食品の規制緩和に踏み切ったとも考えられます。本当に私たちの健康に良く、安全なものが安く容易に手に入るようになることは結構な事ですが、BSEの牛肉のように外圧で不健康食品を押し付けられたのではたまりません。

 従来、国民の健康を守る法律である薬事法と食品衛生法が、米国の日本進出の障害になっていたのですが、政府の市場開放問題苦情処理対策本部の決定を受けて、厚生省が政策変更して規制緩和をしたと言われています。圧力元の米国では、米国薬理学治療学会や米国ヘルスシステム薬剤師会が、米国政府が健康食品を野放し状態であることを非難して、公的規制を強めるよう運動しているそうです。

 一時代前は舶来品神話があり、私の父親はジョニ黒を神棚の中において大事そうに飲んでいましたが、今や時代が違います。訳の判らない内に、我々の血税が何兆円にも及ぶ米軍へのミカジメ料として吸い上げられたり、訳の判らない物を健康になると称して押し付けられないよう私たちの体だけでなく健全な国の将来を考える必要があります。

【文献】
 1) Newsweek、第21巻14号 2006年4月5日
 2) 全国保険医新聞 2006年4月5日

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