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 第9回 「血圧/番外編」

 今回は血圧シリーズの番外編として、日頃トレーナーの皆さんが、ジムのお客さんから受ける可能性のある、循環器系の疑問・質問を設定してお話ししたいと思います。

◇質 問(1) 運動した後は、血圧が上がるように思うのですが、私の場合は下がっています。何か異常があるのでしょうか?

◆答 え(1)
 運動の最中には、正常の心機能では、副交換神経の緊張低下と交換神経の活性化、ノルアドレナリン等の血中カテコーラミン濃度の増加による、心拍数の増加に伴い血圧は上昇します。しかしながら運動後、特にウォーキング等の有酸素運動の後では血漿カテコーラミンが低下し、交換神経緊張の抑制が起こり、毛細血管床の拡張により末梢血管抵抗が低下し、血圧は低下します。

 また、タウリンやプロスタグランデインといった血圧低下に働く血管作動性の物質も関与すると言われています。

 このように神経、ホルモンの働きにより、血圧は運動中は上昇し、運動後は低下するのが正常です。

 一方、心不全、虚血性心疾患などの病的状態では運動中に血圧が上昇せず、逆に血圧の低下を来たし、危険な場合があります。これらの疾患を有する人が運動を始める場合には医師の観察の元、エルゴ負荷等で心機能血行動態の変化を把握した上で慎重に行なう必要があります。

◇質 問(2) 高血圧、高脂血症、糖尿病の運動療法は酸素を消費する等張性運動(有酸素運動)が適しており、最大酸素摂取量の40〜60%が良いと言われていますが、物足りないのでそれ異常の運動を行なってはいけませんか?

◆答 え(2)
 運動により血中のカテコラミン、レニン、アルドステロン、バゾプレッシン、乳酸等の物質が増加しますが、これらはある一定の運動強度、最大酸素摂取量(Vo2max)の70%を越えると急激な上昇を来たし、その結果、血圧も過度に上昇し生体に有効な効果をもたらさなくなる可能性があります。また糖尿病の人では、Vo2max70%以上の運動によりアドレナリンの分泌増加による内因性高血糖が生じ、糖尿病が悪化する可能性もあります。したがって無理のないペースであるVo2maxの40〜60%を維持すべきでしょう。

◇質 問 (3) 年齢より求めた予測最大心拍数から最大酸素摂取量の40〜60%の運動量を推定し、運動を行なっていますが、全ての人に当てはめて良いのでしょうか?

◆答 え (3)
 正常人の場合、予測最大心拍数と実測最大心拍数の間には約10%以上の誤差があると言われています。また、高血圧症でβ遮断剤、カルシウム拮抗薬等の薬物を使っている場合や高齢者、基礎体力が著しく低下している人、心房細動等の不整脈の場合には心拍数からVo2maxを予測することが困難となり、不適切であると言われています。このため、これらの人の有酸素運動能を処方するにあたっては、エルゴメータによるランプ負荷をかけ、自覚的運動強度、Borg指数、他覚的には二重積(心拍数×収縮期血圧÷100)、血圧の急峻な増加の変曲点からAnaerobic threshold(AT)を推測し、運動強度を決める必要があります。

 降圧剤を使用している場合には、運動負荷時のVo2maxが利尿剤使用時に約10%減少し、β遮断剤使用時には10〜20%も減少すると言われています。一方カルシウム拮抗薬やACE阻害薬では、殆ど影響されないという報告もあり、積極的に運動療法を進める場合には医師と相談し、カルシウム拮抗薬やACE阻害薬等のVo2maxに影響の少ない薬剤を処方してもらう事も一つの方法です。

◇質 問(4) 週3回40分程度のウォーキングを頑張っていますが、一向に血圧が下がる気配がありません。私の場合運動療法は効果がないのでしょうか?

◆答 え(4)
 これは我々医師もよく受ける質問です。高血圧の人はどちらかというと気の短い人が多く、早急に結果を求めがちです。消費エネルギーから見ると、ウォーキングの場合一日60分行なって240kcalで、週3回行なった場合720kcalであり、運動だけでは体重の減少も十分でなく、短期的には降圧効果が得られない場合もあることをあらかじめ実行者に告げておくことが必要です。適切な運動と同時に食事療法を組み合わせることが重要であり、運動の降圧効果は開始して10週で50%の人に現れ、20週で78%の人に現れたという報告があることを実行者に告げ、運動を持続させる事こそが重要であると指導すべきでしょう。

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