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 第10回 「血圧/番外編その2」

 今回は私達医師が日頃、高血圧の患者さんを診察していて、よく受ける質問についてお話ししたいと思います。
【質 問】 高血圧の怖さはよく分かっているつもりですが、一旦薬を飲み始めると一生飲まなければならないと言われたので治療をためらっているのですが、どうしたら良いでしょうか?
 
 高血圧の治療は薬物治療が大きな位置を占めますが、その他食事、運動、ライフスタイルなどの生活全般に渡る見直しが重要です。一般的には喫煙歴、高脂血症、糖尿病などの危険因子がない場合や脳、腎臓の機能障害、左室肥大や狭心症などの心臓病、下肢の血行障害、眼底の異常などの臓器障害がない場合には160/100mmHg以上の場合に薬物による治療を開始し、臓器障害がある場合には140-159/90-99mmHgの血圧でも薬物治療を行なうべきであるとされています。しかしながら外来での初対面の血圧測定では、今までも述べてきましたように白衣高血圧の問題や、検診の前日に殆ど徹夜だったといった、血圧上昇の背景となる過度のストレスの有無を考慮する必要もあります。

 このように一時的な高血圧がたまたま検診などでひっかかり、降圧剤を投与されている場合には、血圧を上昇させている条件が取り除かれれば血圧は正常域に戻り、服薬は必要なくなります。

 また、更年期の女性で特別な誘因がなく突然血圧が200mmHg近く上昇し、しばしば動悸を訴え降圧剤を投与されていたご婦人が、ある時期を過ぎると血圧が正常化し、服薬を全く必要としなくなる事もしばしば経験するところです。

 これらの患者さんはもともと降圧剤が必要なかったか、他の治療がむしろ適応であった可能性もあります。このように血圧の治療は一時的に測定された数値だけで判断されるのではなく、患者さんの生活の背景や他の要因を考慮し、包括的に検討する事が必要です。こうした中で降圧剤の中止、休止といった問題を考えなければなりません。

 最近では新聞や雑誌などで、薬の効用よりも副作用が多く取り上げられ、健康保険の改正による患者さんの自己負担額の増加など様々な要因により、世界で有数の薬好き国民と言われた我が国でも、服薬の指導にも拒絶反応を示す人が多くなってきました。これは一面では患者が賢くなった証拠で非常に良い事かもしれません。私達医師もより慎重にインフォームドコンセントを行ない、薬物の副作用についてもお話しをして、治療の必要性と副作用の危惧を天秤にかけ、服薬をよく納得してもらってから投薬をしています。

 こうした話の中で必ず上記の質問が出て参ります。
 そこで私は次のようなお話しを患者さんにするようにしています。

 高血圧が軽症か中等症で臓器障害の無い場合には、食事、運動の効用と方法を時間をかけてお話しし、上腕で測定する自動血圧計を購入してもらい、自宅で定期的に血圧測定を2〜3カ月記録したものを拝見し、生活習慣の修正にも関わらず降圧効果の見られなかった場合に服薬を指導しています。また可能な人にはなるべく24時間血圧計をつけてもらい、白衣高血圧の鑑別、様々な労作、安静、睡眠などの血圧に対する影響を検討した上で、適応と考えられる症例に服薬指導を行なっています。

 さて降圧剤の中止、或いは休止に関しては、血圧が安定した場合、即ち130/85mmHg未満に落ち着いている場合には休薬を試みる事は可能と思われます。特に収縮期血圧が120mmHg以下で安定していればチャンスです。但し、これは厳密な自己管理が必要であり、血圧の自己測定記録を定期的に見せて頂く事、食事、運動療法を継続して頂く事が条件です。

 一般的には休薬により1年以上血圧が再上昇しない患者が1ないし2割いるとされ、その後、何年か後に再度血圧上昇し、降圧剤が必要になる事が多いとされています。冬の間は寒冷刺激により血管が収縮し、血圧が上昇する傾向がありますが、夏の間は逆に血圧が低下傾向にある人も多く、この時期に休薬を行なっている患者さんもいます。

 本態性高血圧(高血圧症の9割以上を占める)では様々な治療により血圧が下がりますが、これは正常域に血圧をコントロールしているのであって、治癒させているわけではありません。我が国では約1千万人が薬物治療を受けているそうですが、そのうち血圧がコントロールされているのは3割程度に過ぎないという報告もあり、薬物治療をもってしても降圧療法は決して容易ではありません。

 何度も出てきますが、まず生活習慣の修正が第一であり、これなくしては薬物治療の効果も半減してしまいます。休薬を試みる場合には、生活習慣の改善を維持しながら厳密な血圧の自己管理を行なう事が必須の条件である事は言うまでもありません。

 自己判断で勝手に薬をやめて数カ月後に脳卒中で倒れた方や、眼底出血を起こされた方、心不全で入院を余儀なくされた方も少なくありません。降圧剤の休薬が可能である患者さんがいる事、休薬は医師の管理の元で行なわれる事が回答の結論になります。

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