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 第11回 「医療と癒し」

 今回は今年最後の医療情報で、医学とは少し離れたお話しをしたいと思います。最近「エコロジー」という言葉をよく耳にします。先日新聞に白神山系の大きなブナの木の写真が載っていました。巨木は「緑のダム」だと言われています。山に降った大量の雨水を木はそのおびただしい数の葉で受けとめ、その幹・根に吸収し、直接雨水が山肌を削り、地滑りを起こすのを防いでくれます。自然は自ら癒す力を持っているのです。しかしながらしばしば人間はおせっかいにもこの微妙なバランスを台無しにしています。

 私達の身体も実に巧妙に各種ホルモン系の作用により、生命を維持していく上でのバランスがとられています。これをホメオスターシス(恒常性)とも言いますが、日頃、無心論者の私も、しばしば神の存在を考えざるを得ないような神秘的なメカニズムに驚かされます。

 さて最近、寄生虫学者の藤田教授が書かれた人間と寄生虫の共生についての記事が注目されています。それによりますと戦後、花粉症、アトピー性皮膚炎、喘息等のアレルギー疾患が増加した事と、日本人の体内から寄生虫が駆除された事が関係しているのではないかという説です。この根拠の一つとなっているのは、免疫グロブリンのひとつであるIgEという物質と、白血球の中の好酸球がアレルギー疾患と寄生虫疾患の双方で増加し、他の病態ではこれらの反応が見られない事から両者の関連が推察された様です。私の小学生時代には毎年検便があり、先生から大便はマッチ箱一杯たっぷり採ってきなさいと言われ、徳用の大きなマッチ箱一杯に大便を持ってきて叱られた友人がいたり、結果がクラス全員の前で発表され、虫卵陽性の赤紙とチョコレートもどきのまずい駆虫剤を渡され、女の子の手前大変恥ずかしい思いをしたことがありました。クラスの多くが陽性者の赤紙、黄色紙をもらった事等、寄生虫に関するたくさんの思い出がありますが、クラスのみならず学年を見渡してもアトピー、喘息の生徒はいなかった様に思います。

 また、最近バリ島の旅行者で下痢をするのは日本人だけだそうで、清潔を追及するあまり、我々日本人は細菌感染に対する耐性が弱ってきているとの指摘です。先日、飲み屋のトイレで気持ち良く排尿している最中に、ひょっと便器に抗菌のシールが貼ってあるのが目にとまり、びっくりして小便が止まってしまいました。私達の体内、とりわけ腸内には大量の細菌がいる訳ですが、私の体内から出た大腸菌もさぞ驚いた事でしょう。

 確かに日本人の寿命は伸びたのですが、感染症に対しては弱くなっているではないかと危惧しています。細く長い人生ではあまり楽しくありません。

 最近、私の患者さんで信じられない程元気な90才になる男性が、「子供の頃は風邪をひいたら、障子の桟にたまったホコリ玉を鼻汁で丸めて丸薬にして飲んで治したよ。日清戦争の頃は兵隊の風邪薬は歯磨き粉だったんだよ。鼻風邪ぐらいで妙な薬飲んじゃだめだ。」と言われて、私は帰す言葉がありませんでした。今どきのひ弱な子供には、このご老人の爪の垢あたりが特効薬になるかも知れません。

 さて、どう言う訳か私は高齢の友人が多く、先日83才の飲み友達から聞いた話を最後にご紹介します。彼が第二次大戦中に、ニュウギニア奥地に従軍していた時の話です。兵隊達は重い軍靴を履いて道なき道を転戦している間に足の裏の皮が次第に厚くなり角質化して、しまいに2月頃のお供え餅のようにひび割れて、痛さのあまり歩けなくなったそうです。ところがジャングルの中で疲れのために泥のように眠った翌朝、兵隊達の足の裏が魔法をかけられた様にスベスベになっていたそうです。原因を突き止めようと徹夜で観察していると、真夜中にどこからともなく小さな鼠が現れて、裸足で寝ている兵隊の足の裏の角質部分だけをカリカリ噛り、決して肉の部分までは噛らず血を出すこともなく、スベスベになると次の足に取り掛かる作業を繰り返していたそうです。これは私の推測ですが、こうした鼠は、猪等のひずめが伸び過ぎた場合にネイルケアーをなりわいにし、一方で自らの伸び過ぎた歯のお手入れをしているとも考えられ、私はすっかりこの鼠が気に入ってしまいました。自然はそれぞれの動物、植物がお互いに助け合い、癒しあっているのです。

 実は私はこの話は内緒にしておくつもりでした。商売気のあるエステ業者が聞き付けると「硬い足の裏とさようなら。あなたもジャングル一泊でスベスベの足へ、変身!」というようなキャッチフレーズでジャングルへ大挙してギャルを送り込まないとも限らないからです。

 まあ、そんなアホなこたあないか・・・。という事で、今年最後の医療のお話しは、いささか絞まらない事になってしまいました。来年はもう少し勉強して皆様のお役に立つ話しをお送りするつもりです。では、皆様よいお年を。サイナラ、サイナラ、サイナラ。

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