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 第3回 「糖尿病セミナー(前編)」

(3月25日 ヒロオカクリニックで開催された定例勉強会のリポートです。)

【弘岡院長先生】 
 糖尿病になると患者さんは病院では血液を採られ、尿を採られ、薬代を取られ、しまいには足まで取られてしまうこともありと、糖尿病というのは実にとられっぱなしの病気なのです。今日は、そういうことではなく、我々の立場から糖尿病についてのお話しをして、病気を克服する何かをお持ち帰り頂きたいと思います。

【弘岡順子先生】 
 皆さん今晩は。今日は糖尿病についてお話しをします。特に皆さん日頃から外来で、我々に「歩け」とか「運動しろ」とかしょっちゅう言われてると思います。これについては疑問に思っている方もいるのではないかと思うんです。「本当に糖尿病に運動は効くんだろうか?」と。あるいは、ここには糖尿病ではない方もおられますが、「運動というのは本当に糖尿病の予防になるのだろうか?」と疑問を持っている方もいると思います。では、効くんだとしたら何故運動が糖尿病に効くのか、何故運動が糖尿病を予防するのかというお話しをしたいと思います。

◆インスリンの発見・・・
 最初に糖尿病という病名なのですが、我々は糖尿病の事を「DM(ディアベティス・メリツスの頭文字)」と呼んでいます。ディアベティスというのはギリシャ語で「多尿」ということで、メリツスは「甘い」ということです。ですから、甘い尿がたくさんでる病気として数千年前から記録されています。この「甘い」というものの正体がブドウ糖であるということが解かったのが180年前です。そしてその原因ですが、普通と違う甘い尿が出る理由というのは、膵臓から出る「インスリン」というホルモンの働きが悪いということです。これが解かったのが77年前で、インスリンが発見された時なんです。

 糖尿病の甘い尿は膵臓(すいぞう)から出るインスリンの作用が不足しているために、血液の血糖値を下げることが出来なくて、ブドウ糖が尿に溢れ出た状態です。インスリンの発見は人類にとって画期的な出来事で、ノーベル賞をもらっています。その時の写真が印象的なのですが、糖尿病でガリガリに痩せた女の子が、インスリンを投与された事によって本当にふっくらとした女性らしい身体に戻ったのを比較したものでした。人類にとって本当に画期的な発見でした。

◆インスリン非依存型・・・
 糖尿病にはインスリン依存型と非依存型の2種類がありますが、私がここで糖尿病と呼んでいるのは、インスリン非依存型糖尿病のことです。「インスリン依存型」は特殊なケースで、数%以下しかおりません。子供や、若い人に多くてウィルス感染などで、インスリンを分泌する膵臓の細胞がやられてしまって、インスリンが殆ど出ないという状態です。日本人の糖尿病の殆どのケースが「インスリン非依存型」と呼ばれ99%をしめます。

◆糖尿病と予備軍の診断・・・
 糖尿病の診断ですが、これは75gの「ブドウ糖負荷試験」で行ないます。受けたことがある方も多いと思いますが、空腹時血糖が140mg/dl以上、2時間値が200mg/dl以上が糖尿病です。正常な人というのは、空腹時血糖が110mg/dl未満、たくさん食べても160mg/dl未満、2時間値が120mg/dl未満に血糖値が保たれています。問題は「境界型」です。糖尿病と診断はされないが、正常範囲でもない。非常に数が多く「糖尿病予備軍」と呼ばれ、大変問題になっています。

 覚えておいて頂きたいのは、糖尿病というのは、血液の中の糖が多いということです。尿では診断できず、血液を採ってみないと分かりません。血液中の血糖値が高い状態が続くということが糖尿病です。ですから糖尿病という病名を変えたほうがいいという意見も、数年前学会で論じられました。尿という言葉は汚いイメージがあるし、本質的な事を表していないということもありまして、「高血糖症」という病名が正しいのではないかという議論があり、投票までしたのですが、わずかの差でやっぱり糖尿病でいいではないかとなったらしいです。

 尿では診断できないということ、血液で診断するということは日本糖尿病学会の基準による診断なのですが、一昔前までは医者ではなくある職業の人が糖尿病を診断したそうです。ご年配の方は分かると思いますが、水洗トイレではなかったころ、トイレの汲み取り屋さんが診断していたそうです。私は大学時代新潟に下宿していまして、ある日汲み取り屋さんがガラっと玄関を開けて確信を持った顔で、「この家には糖尿病がいる」と言いきりました。そこで、下宿のおじさんが新潟大学の医学部の大学病院で検査したところ、やはり糖尿病だったと分かりました。確かに甘い臭いの尿がでますから分かったんですね。

◆ベータ細胞の働き・・・
 正常な人というのはかなり狭い範囲で血糖値が保たれています。物凄くたくさん食べてもこの範囲内に保たれています。それは何故かと言うと、膵臓には、「ベータ細胞」というのがありまして、そこからインスリンというホルモンが出ます。そのインスリンの働きによって血糖値が保たれるのです。このベータ細胞というのは非常に優れた血糖センサーを持っています。ほんのわずかな血糖値の変化を感知しまして、それに応じてインスリンを出します。少し血糖値が高いと少しインスリンを出し、少し血糖値が低いとインスリンを少し控えるという微妙な調節をしています。これが人間の科学やコンピュータを使っても不可能な、神様が創られた「高性能血糖センサー付きインスリン分泌器」とも言える、膵臓のベータ細胞なのです。おかげで、血糖がこんなに狭い範囲に保たれているのです。

(後編は5月10日発行の第4回でお送りします。後編は次の内容となります。)

 ◆ブドウ糖の役割・・・
 ◆運動による血糖値の変化・・・
 ◆糖尿病の合併症・・・
 ◆糖尿病の発病原因・・・
 ◆インスリン抵抗性と高インスリン血症・・・
 ◆運動による急性と慢性の効果・・・

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