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 第4回 「糖尿病セミナー(後編)」

(3月25日 ヒロオカクリニックで開催された定例勉強会のリポートです。<Dr. 弘岡順子>)

◆ブドウ糖の役割・・・
 次に、血糖というのは、血液の中の「ブドウ糖」を現わしているのです。ブドウ糖というのは「グリコーゲン」という形で筋肉や肝臓の中に蓄えられています。これは車で言えばガソリンで、我々が運動するときのエネルギー源がグリコーゲンなのです。グリコーゲンは血糖と呼ばれている血液の中のブドウ糖からつくられているのです。

 もう少し、血糖の調節についてお話しをしておきます。例えば、ステーキを食べて、チョコレートを食べて、アイスクリームを食べるということをすると誰でも血糖値は上昇します。すると膵臓のベータ細胞のセンサーが働いて血糖値の上昇を感知して、すぐにインスリンをたくさん分泌します。インスリンというのは主に筋肉と肝臓と脂肪組織に働きます。筋肉を例にとりますと、血糖値が上がったということでインスリンがたくさん出てきて働きますと、血液の中のブドウ糖が筋肉の細胞の中に取り入れられます。取り入れられたブドウ糖は筋肉の中でグリコーゲンをつくります。血液の中のブドウ糖が筋肉の中へ移動しますから、すごく高くなった血中の血糖値が下がって来るのです。血糖値が下がると、すぐにベータ細胞が感知して、分泌していたインスリンを押さえます。わずか5〜10mgの血糖値の変化を感知して数秒以内にインスリンを分泌するという優秀なベータ細胞の働きです。

◆運動による血糖値の変化・・・
 そこで運動をしますと、車が走るときにガソリンが必要な様に、運動をするときには筋肉の中のグリコーゲンを使います。しかし、筋肉の中に蓄えているグリコーゲンというのはほんの少しです。5分〜10分間くらい運動をしますと筋肉にあらかじめ蓄えられていたグリコーゲンはなくなってしまいます。 筋肉の中のグリコーゲンがなくなってしまいますと、運動を続けるために筋肉はインスリンの働きで血液の中のブドウ糖を取り入れて、再度グリコーゲンをつくります。運動をしますと血液の中からブドウ糖を筋肉の中に取り入れて使ってしまいますから、血液の中の血糖値(ブドウ糖の値)は下がります。

 軽い程度でも運動をすると体内ではせっせとグリコーゲンを消費し、血糖値が下がります。また、この体内の働きは運動中はもちろんですが、運動の後も運動の程度によってですが数時間から12時間位続きます。運動によって使い果たしてしまったエネルギー源をどんどん補充しようとして、血液の中のブドウ糖を筋肉の細胞の中に取り入れています。これが「運動をすると血糖値が下がる」という原理で、それは運動中だけでなく、運動後もその作用が続くということです。

 また、運動のエネルギー源としてグリコーゲンに続いて脂肪が使われますが、脂肪を燃やし肥満を改善するためには、40〜50分間位の比較的長い運動が必要です。

◆糖尿病の合併症・・・
 先週朝日新聞の一面トップを飾った記事で、「糖尿病の患者さんが日本で690万人、40才以上の人の10人に一人が糖尿病にかかっている」という調査結果がありました。予備軍も含めますと1,370万人です。いまや糖尿病は誰でもなりうる病気です。糖尿病が激増してきているのは、昭和30年を「1」としますとその後の30年間で31倍に増えています。この増え方は自動車の売上台数の増加とほぼ一致しています。もちろん戦後ですから食生活が西欧化してきたということもありましたが、一番大きな理由は運動不足ではないかということが記事でも指摘されています。ではどうしてこれがトップ記事になるかということです。糖尿病が増えていることがマスコミでも大ニュースになっています。

 糖尿病は血糖値が高いことを放置しますと全身の血管が動脈硬化を起こします。特に細い、最小血管と呼ばれる血管が硬くなってだめになってしまいます。例えば、腎臓というのはこの細い血管の集まりですから、機能が止ってしまいます。一番多いのは三大合併症と呼ばれる、「網膜症・腎症・神経障害」です。

 網膜症というのは高血糖を放っておくと平均5年位で起こります。最悪は失明で、糖尿病は中途失明の原因の第1位です。そして腎症は、毎年糖尿病が原因で透析が必要になる腎不全患者が4,000人という事実があります。これは平均9年ぐらいで起こります。そして、神経障害はしびれなどで自覚症状がありますのでもっと早くわかります。網膜症と腎症はかなりひどくなるまで自覚症状がありません。眼科に行って初めてあなたは糖尿病だと指摘されます。もうかなり重症の糖尿病の場合もあり、その半年後に失明ということもあります。この「自覚症状が無い」というのが問題なのです。その他に下肢の壊疽(えそ)というのもあります。村田英雄さんがそうでした。ですから、国としては690万人の人がこんな合併症にかかってしまったら大変です。医療費はかかるし、働き手はいなくなってしまいます。そこで今、厚生省などがそうならないために取り組み始めたのです。

◆糖尿病の発病原因・・・
 では、何故糖尿病になるのでしょう。糖尿病は遺伝因子に環境因子が加わって発病します。原因としての重みは、30〜40%が遺伝、60〜70%が環境とされています。環境因子で特に重要なのが肥満と運動不足です。遺伝因子を持っている人でも、この環境因子である肥満・運動不足・偏食・ストレスなどに気をつければ、糖尿病の発病を避けることが出来ます。

 まず、遺伝的な「インスリン分泌不全」というのがあります。高血糖になったとき「超高性能血糖感知センサー付きインスリン分泌器」であるベータ細胞がうまく働かずにインスリンがうまく出てこない状態です。

◆インスリン抵抗性と高インスリン血症・・・
 次に「インスリン抵抗性」ですが、これが最近特に重視され、環境因子とも深く関係があると言われています。インスリン抵抗性は、インスリンが十分に分泌されているのに筋肉や肝臓の中で働かないというものです。筋肉や肝臓の中のインスリン感受性が低下している状態です。何故こういうことが起きるかもどんどん解明されています。インスリンが働かないので、膵臓はもっとインスリンを出そうとします。インスリンを出しても出しても働かない状態です。ですから、糖尿病の方や予備軍の方のインスリンを調べますと、正常な方よりかえって高い数値が出ることも多いのです。これは「高インスリン血症」と呼ばれ、肥満・高脂血症・高血圧・糖尿病は高インスリン血症という共通の根っこを持っているのではないかということが論じられています。

◆運動による急性と慢性の効果・・・
 インスリン抵抗性が生じやすい状態は肥満や運動不足だと言われています。肥満・運動不足がインスリンの感受性を悪くして、インスリンが出ていても働かない状態をつくると言われています。
運動を続けていますと、インスリンの抵抗性が改善されると言われています。これが運動を継続することの効果です。運動をすると血糖値が下がるというお話しをしましたが、それは急性の効果です。運動による慢性の効果とは、運動を継続することによってインスリンの感受性が良くなるということが最近判って来ました。最近の分子生物学の進歩で証明されたのです。

 細胞の表面には細胞膜というのがあります。細胞というのは血液の中から細胞膜を通して色々なものを吸収して生きています。筋肉の中へ血中のブドウ糖を取り込むときに働くのが「糖輸送担体」という蛋白です。糖輸送担体、これが糖の運び屋です。通常は細胞内にいます。インスリンが細胞膜に着くと指令が細胞の中に伝わり、糖の運び屋が細胞膜の表面に移動してきます。集まった運び屋は細胞膜にゲートを開いてブドウ糖を中に運び入れます。運動を継続すると、この糖の運び屋「糖輸送担体」の数が増えます。増えると同時にインスリンの指令によって細胞膜の表面に動くという働きが良くなります。これも分子生物学の研究で解明されています。糖尿病にかかっている方、糖尿病の予備軍の方も運動を継続することによって、週に1回〜2回の軽い運動であってもそれなりに糖の運び屋は増えるという事も分かっています。ですから、運動することによってこの糖の運び屋の働きを活発にして、インスリンの抵抗性を改善することが出来ます。糖尿病の方は、毎日歩くなどの運動により、病気を改善したり、予備軍の方は発病を予防をする事が出来るわけです。

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