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 第5回 「血圧Vol.1」

 今回からこのコーナーではシリーズで「血圧」についてお話ししてみようと思います。

 我が国では高血圧の人は2,000万人と言われ、まさに国民病です。これら高血圧の人は皆、きちんと治療を受けているかというと、実際にはそのまま放置している人が圧倒的に多いようです。これは医療側の責任でもありますが、定期健診の結果も「高血圧要観察」、「要治療」と報告書に記載されるだけで終わっている場合も少なくなく、どのような治療を選択すべきなのか、きめ細かい治療方針を伝えることや、生活指導が行なわれていないのが現状のようです。

 治療にも色々あり、減塩を中心にした食事療法、チャックさんのご専門の運動療法、各種薬物療法など様々です。最近では、新聞・TV・雑誌などで血圧に関する記事をよく見かけるようになり、血圧についての国民の認識も大分高まっているように思われますが、「血圧とはなんだろう」といった基本的な点に関しては、意外に盲点のように思われます。そこでまず血圧シリーズの第1回として、今回は血圧のメカニズムをお話しします。

 血圧は文字通り、血管内の圧です。昔、椿三十郎という映画で首を切られた侍の頚動脈から数メートル吹き上げる出血の場面がありました。私は心臓外科に従事した最初に、心臓から出てすぐの所にある大動脈の拍動を直に手で触れて、そのあまりにも強いはじけんばかりの圧力に驚いた記憶があります。

 この血管の圧が最初に測定されたのは、丁度ニュートンが万有引力の法則を発見した1727年、英国の牧師ヘールズによってでした。彼は馬の頚動脈に直接真鍮の管を突き刺し、それにガラスのチューブを接続しその管の中を吹き上げる動脈血の高さで血圧を測定したと言われています。この方法は実験としては良いのですが、臨床の場で血圧を測るのに、一々頚動脈に管を差し込まれたのではたまったものではありません。そこで非観血的に測定する方法が色々試みられました。

 1896年にイタリアのリヴァ・ロッチによって、上腕にカフを巻き水銀圧力計に接続して、カフを加圧しながら手首の所で触れる橈骨動脈の脈の消える寸前の圧を読み取り、収縮期血圧とする方法が完成され、今日の血圧計の原型となりました。また今日、私達は聴診器を用い、血管音を聴取して血圧を測定していますが、これは日露戦争の頃ロシアのコロトコフによって観察され報告されたものです。即ち上腕のカフを加圧し、手に行く動脈血の血流を一旦止めた後に徐々に圧力を減らしますと、狭くなった動脈の中を血液が流れ始め、血流の渦が生じ、血管壁にあたり、脈拍音が聞こえてきます。この時点の水銀中の目盛りが最高血圧(収縮期血圧)で、さらにカフの圧を緩め、動脈の圧迫が取れ、血管音が消える時点を最低血圧(拡張期血圧)としました。今日我々はこの方法で血圧を測定しています。家庭用に普及している自動血圧計もこの原理を応用し、マイクロフォンを用いて、血管音を拾うものと、血管の振動を捉えるオシロメトリックという方法によるものがあります。

 さて先ほども述べましたが、血圧は収縮期、拡張期血圧として表現されます。収縮期血圧は心臓が収縮し、左心室から大動脈への出口にある大動脈弁が最大に解放され、左心室の動脈血が勢い良く大動脈へ駆出された状態です。このとき動脈の壁は最高に緊満し、緊張した状態となります。一方拡張期血圧は左心房から左心室へ血液が流れ込み、左心室が最大限に拡張した状態で、大動脈弁がぴたりと閉じ、大動脈への血液の駆出が止った状態です。このとき血液は毛細血管、静脈系に流れ、動脈系の圧は最も低くなります。

 このように周期的に心臓の収縮と拡張により血管内に血液が送り出され、内圧の変化が生じるわけですが、収縮期に関与する因子として、

  1. 心臓が血液を送り出す力である心拍出量
  2. 大動脈の壁のしなやかさである弾性
  3. 循環血液量

があげられます。心不全といって心臓がバテた状態では心拍出量が減り、収縮期血圧は低下します。動脈硬化で大動脈の壁が硬くなり弾性が失われると血圧は上がります。また出血などで循環血液量が減ると血圧は下がることになります。

 拡張期血圧に関与する因子としては末梢血管の抵抗、血液の粘調度、循環血液量があげられています。肥満や糖尿病、高脂血症、ヘビースモーカーなどで末梢血管が細くなり、血管抵抗が高い状態で拡張期血圧は上昇します。

 これらの血圧のメカニズムに様々な生化学的因子が関与して血圧を上げたり、下げたりしています。ちなみに上げる物質としては、交換神経の伝達物質であるノルエピネフィリンなど、下げる物質としてはドパミン、タウリンなどが知られています。

 このように血圧は複雑なメカニズムによって維持されていますが、遺伝的、環境的な要素が絡み合って高血圧になると考えられています。

 基本的な話しは複雑で分かりにくく、退屈ですが、これからのシリーズを理解して頂く上で重要です。お茶でものみながら繰り返し読んで頂ければと思います。

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