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 第12回 「子供と成人の突然死」

 あけましておめでとうございます。

 今年の最初の医療情報は、慢性疾患と運動についてお話ししたいと思います。

 高血圧・肥満・高脂血症等の生活習慣病に対する運動の効用については、今迄述べてきました様に、広く認識されてきております。比較的安全に運動療法が実施されていますが、慢性の肝臓病や腎臓病、心臓病を持った人達の運動に関しては、学校や社会で一定の具体的な指針があるものの、有効に機能していない場合もあります。

 小学校や中学校では疾患がそれほど重症で無いにも関わらず、事故を恐れるあまり、「熱ものに懲りて、なますを吹く」の例えのごとく、簡単な体育の授業さえ禁止されている学童の話も聞きます。心身の発育途上にある子供にとっては、仲間から隔離された運動の制限は身体的のみならず精神的にも障害をきたす可能性があります。

 また一方では、安易な運動指導や不完全な管理による致死的な運動中の事故の報告もあり、適切な管理と指導が重要です。では保護者・教師・校医にとって気になる学校管理下の突然死の現状はどのようになっているのでしょうか。

 死因に関しては心臓系の突然死が殆どであり、その頻度は児童・生徒10万人あたり、『小学生0.3%、中学生0.8%、高校生0.9%』と言われています。突然死の基礎疾患としては、先天性の心臓病・肥大型心筋症・不整脈が殆どを占めています。

 これらの心臓病を持っている児童の殆どは、心臓の専門医によって6段階からなる心臓病管理指導区分が評価され、学校側に提出されています。学校ではこの区分に従って、『強い運動・中等度・弱い運動』の管理指導表を作成して運動を実施しています。この結果、全般的には運動の強度が増すにつれて死亡率も増加傾向にあります。

 疾患の重症度別にみると最も重症な、在宅医療・入院が必要な生徒は運動が不可能であり、運動中の死亡はありません。次に重症なグループである『心不全や危険な不整脈、高度のチアノーゼで治療中の群』、その次に重症な『心不全出現の可能性のあるもの、運動に際し危険を伴う可能性のあるものの群』では数は少ないものの弱い運動で死亡例があり、指導者にとっては大変な事ですが厳密な運動の制限を含めより細心の注意が必要です。

 問題は『軽症と診断されている群』です。この群では死亡例が多く、軽症例ほど強い運動で死亡例が報告されています。家族、指導者にとっても予想外の突然死となり、死亡した児童に無理を強いたのではないかといった責任の所在が問われることも少なくありません。現時点では心電図検査を含めた学童の心臓検診が行われてはいますが、心臓病を有する学童では適切な管理指導にも関わらず、運動による突然死を完全には防ぐ事ができず、ランニング等の強度の強い運動においては決して無理をさせることなく、より慎重な評価と対応が必要です。

◆成人の運動と突然死
 我が国では年間約8万人の人が突然死すると推定されていますが、スポーツ中の頻度は多くなく、『睡眠中33.9%、入浴中10.9%、休息中6.6%、労働中4.9%、排便中3.8%、歩行中3.3%、家事3.0%』に対し『スポーツ中1.0%』と報告されています。しかしながら単位時間あたりの危険率を見るとスポーツは最も高く、注意が必要です。

 性別では男性が女性の約6倍あり、運動の種目別に見ると40才未満ではランニング・水泳、40〜59才ではゴルフ・ランニング、60才以上ではゲートボール・ゴルフが多いと報告されています。死因に関しては心疾患と脳血管障害が殆どであり、高齢者においては運動強度の強い種目での事故が少なく、理由としてはランニング・テニス・水泳等の競技人口が少なくなること、虚血性心疾患等の有病者が激しい運動を避けていることも考えられます。

 一方、フィットネス施設での死亡事故は、約488万人の利用者に対して1人と極めて少ないのに比べ、野外で行うレクリエーション程度の運動強度の低いスポーツでは高齢者においても死亡例が少なくありません。運動前中後の健康管理、温度、湿度等の環境に対する配慮も重要です。

 最近、日周性疲労(睡眠時間が一日3時間以内)、慢性疲労(一ケ月間睡眠時間が不足)の心肺機能の研究が行われ、それぞれ嫌気性代謝閾値時の酸素摂取量、peakVo2の低下が報告され、慢性疲労時には代謝機構が破綻すると述べられています。昔から言われていることですが、十分な休養をとってから運動をすべき事が科学的にも証明されました。無理をせず日頃から適切な健康チェックを行い、慎重な管理の元で運動を行うことが事故を防ぐ上で重要です。

【文献】
 1) 伊藤三吾 他: 児童生徒の突然死における死因分析、小児臨床48:1995-12
 2) 高田英臣 他: 突然死の実態とその病態生理、日本内科学会雑誌87(1)1998

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