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 第22回 「めまい」

 だいぶ秋の気配が深まって来ました。気持のいい日曜日の朝、新聞を見ていますととんでもない記事がありました。私は野次馬なので、人生相談の欄を時に憤り、時に納得しながら楽しんでいますが、この日の投書には怒りを通り越して呆れてしまいました。それは、「私の息子がスーパーで音楽雑誌を一冊万引きして捕まり、学校から自宅謹慎の処分を受けたのだが、厳しすぎる」と抗議するものでした。返答の弁護士が本一冊の万引きも立派な犯罪であり、この事を軽視し学校を非難する親をやんわりとたしなめていました。おそらくこの親は学生時代に罪の意識も無く、それを他人から非難される事もなく万引きに励んでいたのでしょう。又、先日乗ったタクシーの運転手から赤ん坊を車に置き忘れたヤンママの話を聞き、この国の将来を思いめまいを覚えました。という訳で、今回は「めまい」についてお話しします。

 一般にめまいは

(1)回転性のめまい
(2)身体のふらふら感や揺れを訴える動揺性のめまい
(3)立ちくらみや目の前が暗くなるとして訴えられる失神性のめまい

に分類されています。

 回転性のめまいの代表的なものは女性に多いメニエール病です。天井や周囲がぐるぐる回る回転性のめまいと耳鳴り、耳がつまった様な難聴を主訴としています。その他、頭位性のめまいといって、ある頭の位置によりめまいが発生する場合があります。この場合30秒以内に治まる回転性のめまいであれば良性で心配ありません。一般に耳が原因となるメニエール病、突発性難聴、前庭神経炎では回転性めまいが半日以上続く事が多い様です。このめまいの他、物を飲み込むのが困難になったり、声を出しにくくなったりする下部脳幹部という脳の症状や、身体の平衡感覚が崩れる小脳性失調を伴ってくると、めまいの背後にある重症な疾患である脳血管障害、脳腫瘍等を疑わなくてはいけません。又、頭痛がある場合には小脳出血、くも膜下出血等を鑑別する必要があります。

 高齢者で椎骨脳底動脈という重要な血管が動脈硬化で狭くなり、一時的にその中を流れる血流が途絶え、脳が虚血状態となる場合にも回転性のめまいが生じます。この場合には突然の回転性めまいの他、物が二重に見えたり、四肢の運動が麻痺し、物がしゃべれなくなるなど多彩な症状を示しますが、多くは短時間の内にこれらの症状が無くなり回復します。重症感があるので救急車で病院に運ばれ、脳のCTやMRI等の精密検査が行われて診断される事が多い様です。血流低下の原因として高血圧に対する降圧剤が効きすぎて、脳の血流が低下する事が原因になっている場合もある様です。

 身体が酒に酔ってフラフラしたり、船の上でよろける様な感じのめまいが動揺性のめまいです。原因として過度のストレス、過労、貧血、更年期障害、心因性、薬物に因るもの(ある種の抗生物質、利尿剤、抗てんかん薬等の副作用)の他、小脳や脊髄の神経の変性に因る病気の症状として見られる場合もあります。

 我が国でも米国でもめまい患者の1/3は心因性と言われており、他に今迄述べた他覚的症状が無い場合には、心理学的アプローチによってその背景原因を突き止める事も必要になってきます。

 失神性のめまいは、朝のホームでよく見かける若い女性の起立性低血圧の様に全身血圧が一時的に低下する事に因るもの、房室ブロック、高度徐脈等、心臓のリズムが正常に働かない不整脈に因るもの、てんかん発作、糖尿病の低血糖発生時等で失神に到る過程で生じるめまいです。

 以上述べて来ました様に、めまいは内科(神経内科、循環器内科、糖尿病等の内分泌内科、心療内科)、耳鼻科、眼科、脳外科、精神科等の多くの診療科にまたがる疾患の一症状として現れ、放置してよいものから短期間の内に生命の危険が訪れる重篤な疾患の前触れとして現れるものまで様々です。

 いずれの原因にせよ、めまいを起こした患者は強い不安定状態にある事が多く、最初に精神的に落ち着かせる事が重要です。持病として時々生じ、一日程度で治まり、増悪傾向のない回転性のめまいは一般の診療所で重曹水の注射や鎮静薬、安定剤の服用で治まる場合も多くあまり心配ありませんが、数日間持続し、次第に増悪傾向にあり他の神経症状を伴うものでは設備のある病院で専門医に見てもらう必要があります。窓口は耳鼻科、神経内科が適当でしょう。

 急激に発症する回転性のめまいで、頭痛や他の神経症状を伴い、歩く事も出来ない様な場合には、救急車で病院に行き脳外科等で精密検査を受ける必要があります。一時的な動揺性のめまいを繰り返す場合には神経内科で中枢性の病気が無い事を診断してもらい、心療内科、精神科でじっくり治療してもらうと良いでしょう。失神性のめまいの場合は、一般内科で心臓病、糖尿病等が無いか診断してもらい、それぞれの内科専門医に送られ、基礎疾患の治療を受ける事になります。

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