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 第13回 「腎臓病と運動(その1)」

 今回は慢性疾患の内、腎臓病と運動についてお話ししたいと思います。

 我が国では慢性腎不全患者が年間10,000人増加し、腎不全末期患者の人工透析の導入件数も年間約10,000人ずつ増加していると言われています。これらの透析に至った症例の内訳を見てみると、31.9%が糖尿病性腎症であり、39.4%が慢性糸球体腎症と言われています。前者の糖尿病に関しては、その予防と治療に関して運動の効果は確立されており、推奨されていますが、一旦腎機能障害をきたした場合は、運動は増悪因子とされ、制限されている場合も少なくありません。合併症を起こす前に適切な運動療法を行う事が重要です。

 ところで腎機能障害を生じた患者は皆、運動を制限すべきなのでしょうか?
 現在学校・職場の検診では必ず尿検査が義務づけられ血尿、蛋白尿のチェックが行われ、腎臓病の早期発見が試みられていますが、中には予後が良好な腎機能障害児が運動を制限されている場合もある様です。腎臓は予備能力の大きな臓器であり、その機能が半分に低下しても症状が現れないと言われています。

 しかし腎障害が一旦、不可逆的な慢性腎機能障害になると病状は進行性であり、進行の程度に差はあるもののいずれは機能が完全に途絶し、人工透析や腎臓移植の適応となってしまう病気です。慢性腎機能障害は障害の程度により軽症から重症の尿毒症に至る4期に分けられておりますが、運動を行う事による腎機能の状態を経時的に正確に把握する事は困難です。尿道にカテーテルを入れたまま、運動による尿量や尿蛋白量を逐一測定すれば多少のデータが得られるかも知れませんが、よほどマゾ趣味の人でない限り被験者になる人はおらず、非現実的です。

 心疾患や高血圧の患者さんに対する運動療法の様に、運動指導者が心拍数や血圧の変化等から随時患者にとって過度な運動の危険を察知して指導する簡便な指標や手立てが腎機能においては無く、そのため前述した様に運動が許されるべき小児腎炎の児童が長期安静を強いられるといった事が起こっているのではないかと思います。

 生理的には運動によりアドレナリンの分泌が腎血管の収縮をきたし、腎臓への血流が減少し、同時に糸球体の透過性を亢進させるとともに、レニン、カリクレインなどのホルモンの働きにより腎尿細管での蛋白の再吸収が妨げられ尿中へ蛋白が出てしまうと考えられています。これらの変化は健康な人と腎炎患者の双方で起こると言われていますが、これは一時的な反応であり、運動を中止すると元に戻ると言われています。運動や起立した状態で一時的に腎機能が低下する事から、腎疾患患者では運動が制限され安静が強調されてきた訳です。先にも述べた様に慢性腎機能障害には、軽症の治るものと、進行性のものがあり、運動の指導も病状によって異なります。

 学童においては専門家によって作成された重症度によった管理基準があり、それぞれの病態に応じ、各種運動がきめ細かく指導できる様になっています。学童の腎疾患患者に対し腎機能の悪化をおそれ運動を禁止する事は心身の発育状況からも好ましい事ではありませんが、腎臓病に対する運動負荷に関しては未だに分かっていない事が多く、決して無理をさせない事と、運動の前後にこまめに医師の診断を仰ぐ事が重要であろうと考えます。

 人工透析になった患者に対しても循環機能や筋力・糖・脂質代謝を維持増強するための運動療法の有効性が報告されています。腎臓病患者が運動を行う事は、本人はもとより家族・運動指導者・医療者側にとっても大変な事ですが、少しでも制限された中での生活の質の向上を目指せる様お手伝いしたいものです。

【参考文献】

  1. 山崎元ほか 「慢性疾患と運動」文光堂、東京、p.158,1996
  2. 鈴木政登 「腎疾患と運動」体力科学46:139,1997
  3. Mary L Boyce: Exercise Training by Indivisuals with preddialysis Renal failure
    American Journal of Kidncy Diseaso 30:180,1997

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