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 第14回 「腎臓病と運動(その2)」

 今回も慢性腎炎と運動についてお話しします。前回も述べましたが腎臓は代償能力の強い臓器であり、半分の機能が失われても自覚症状が現れないと言われています。しかしながら一旦症状が出現すると、進行性であり最後には尿毒症と言う状態になり、様々な血液中の老廃物を尿中に出すことが出来なくなると、生命維持の為に血液透析(人工腎臓)が必要になってきます。

 私事になりますが、最近悲しい事がありました。先頃某医科大学の教授を定年退職した親しかった親戚が腎不全で亡くなったのです。彼は多くの医者がそうであるように、不養生で一切健康診断を受けずに過ごしてきました。たまたま受けた尿検査で大量の尿蛋白が認められ、慢性腎炎と診断されました。その後の病気の進行が早く、透析治療にも関わらず、2年ばかりの内に亡くなってしまいました。早い時期から定期検診を受け、早期に治療が開始されておればと残念な気持で一杯です。

 企業の検診でも尿蛋白、尿潜血の陽性者がかなりの頻度で見られます。確かに蛋白尿、血尿イコール腎臓の器質的障害ではなく、一時的な機能的な腎動脈、腎糸球体の濾過率の変化で蛋白尿が出る場合もあります。猫を長時間怒らせたり、ヒトに憂鬱なドラマを聞かせたところ腎血流の変化を来たし、蛋白尿を認めたという報告もあり、中枢神経、交感神経の関与で一時的に蛋白尿が出ます。前回も述べましたように激しい運動の後に血尿、蛋白尿の出現を見ることもまれではありません。

 しかしながらスクリーニングとしての尿検査でこれらの所見が認められた場合には、自覚症状が無くても慢性腎炎が潜在している場合もあり、再検査を受け、血尿、蛋白尿が持続する場合には専門医を受診する事をお勧めします。

 特に慢性糸球体腎炎は我が国の透析患者13.5万人の中で、最も頻度の高い原因疾患であり60%近くを占めています。その慢性糸球体腎炎の中でも最も頻度が高く、成人の30%以上、小児の20%以上を占めるIgA腎症が問題となっています。この疾患は腎臓の糸球体メサンギウムという部分にIgA免疫グロブリンという物質が沈着して起こる糸球体腎炎です。この疾患の多くが学校検尿で無症候性の血尿、蛋白尿として発見されています。この腎炎は進行性であり、20年以内に30%以上が腎不全になると言われています。この疾患に対しては腎臓に針を刺して採取した腎臓の病理組織検査や血圧、血液、尿の生化学的検査で予後が判定され、

 将来透析の可能性のない、1)予後良好群。
 透析の可能性の低い、2)予後比較的良好群。
 5年から10年で透析になる可能性のある、3)予後比較的不良群。
 5年以内に透析に移行する、4)予後不良群

 この4群に分けられ治療方針の指針が決められています。予後良好群や比較的良好群では、特に過激な運動を避ける以外にも食事も含めて制限は無く、積極的に中等度の運動療法を勧めても問題ないと思われます。一方、予後比較的不良群、予後不良群では安静が重要となり、通勤や座学による学業は差しつかえありませんが、運動を始め、厳密な低蛋白、減塩を中心とした食事療法、妊娠出産の制限などの規制が必要になってきます。

 さて、次に前回も少し述べましたが糖尿性腎症について触れたいと思います。糖尿病性腎症から透析に移行する患者は年々増加し、新規透析患者の内、本症が占める割合は30%以上と言われています。運動療法は糖尿病治療の基本ですが、糖尿病性腎症ではむしろ運動が腎機能を悪化させる場合もあります。運動療法の適応として微量の尿中アルブミンが見られる時期では、糸球体濾過量GFRが80ml/分以上で、血中ベータ2ミクログロブリンという物質が正常であれば運動療法の適応があるとされています。

 しかしながら血中クレアチニンが2.0mg/dl以上では、運動が腎機能を悪化させる可能性があり、運動制限が必要になってきます。いずれにしても医師の診察を受けてから運動療法を考慮する事が重要です。

 慢性腎臓病と運動の実際について【各種腎疾患の管理区分の目安】をご要望の方はメールでご依頼ください。

※文献 日本学校保健会編: 学校検尿のすべて/予防医学事業中央会、東京 p.95-99,1989

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