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 第15回 「肝臓病と運動」

 今回は肝臓病と運動についてお話ししたいと思います。日頃会社の企業検診や地域住民の検診で行われている血液検査の結果、肝機能障害は、高脂血症と並んで最もしばしば指摘される疾患の一つです。

 肝機能検査のうち「γGTP軽度上昇」等と報告されますが、多くの場合、過剰なアルコールの摂取や脂肪、糖分の取り過ぎによる脂肪肝によってもたらされたものです。節酒、減量などのライフスタイルの改善を指摘されるものの、あまり守られず、例年同じ指摘をされ続けている人も多いようです。時には私達医師も無理に恐い顔を作り、「あんたはシキュウキンシュだ!」と言っても、「先生、冗談きついなあ。男に“子宮筋腫”はありまへんがな。」と、当方の意味する“至急禁酒”とは解してくれません。

 一般的に肝臓病の原因はウイルス性、アルコール性、薬剤性、自己免疫性によるものが挙げられています。先に述べました検診結果は別として、総合的に見ますと我が国の肝臓病の原因の80%を占めるのはウイルス性と言われています。常習飲酒者(日本酒に換算して一日3合以上、5年以上)の肝障害でもアルコールだけが原因ではなく、40%の症例に肝炎ウイルス感染が合併していると言われています。

 ウイルス肝炎にはA型〜E型の5種類の存在が認められています。我が国ではB型肝炎ウイルス持続感染者が120〜140万人位いると言われ、C型肝炎についてはウイルス抗体陽性者が320万人と推定されています。特にC型肝炎は進行性であり、慢性肝炎から肝硬変、さらに一部の人は肝癌へ至る怖い病気です。従って肝機能障害を繰り返し指摘されている場合には、アルコールだけが原因と考えず、一度肝炎ウイルスの検査を受ける事をお勧めします。

 さて、肝臓病は病気の経過から急性肝炎、劇症肝炎、慢性肝炎、肝硬変、肝臓ガンに分けられます。急性肝炎、劇症肝炎は症状が激烈であり、特に後者は死亡率が高く絶対安静が必要となります。従って、今回のテーマの肝臓病と運動については、主に慢性肝炎について述べる事になります。

 肝臓は予備能力の高い臓器であり、正常の状態では本来の機能の1/5程度しか発揮していないと言われています。この肝臓の機能に対し運動がどの様な影響を及ぼすのでしょうか。この問題に関しては主に運動時において、肝臓を流れる血液の量が主な役割を果たすと考えられています。従来より運動を行う事によって骨格筋の血流が増加し、相対的に体内の血液プールである内臓臓器、とりわけ心臓が拍出する血液量の1/4が流れる肝臓への血液は減少すると考えられ、この事が肝臓病では安静が一番大切であるという金科玉条の根拠になってきました。

 ところが最近の研究で、健常者の肝臓では運動の最中には肝臓の血液量が一時的に減少するものの運動終了後に著しく増加し、その後時間をおいて運動前の状態に復帰する事が実験的に証明されました。これは肝臓に取り込まれやすい緑色の色素であるICG(インドシアニングリーン)と言う物質を静脈注射し、15分後にどの程度の量の色素が肝臓に取り込まれずに血液中に停滞しているかを調べる検査によって行われました。この方法により慢性肝炎と診断された患者でも重症でない限り、健常者と同じ結果が得られ、食後20〜30分の安静と食後2〜3時間後の自然歩行速度(60m/分)で20分程度の散歩を行い、歩行後30分の臥床安静が適切であるという運動療法の基準が提案されています。

 しかしながら慢性肝炎でも肝機能が高度に障害された人や、既に肝硬変になった人では、残念ながら運動を積極的にはお勧め出来ません。肝硬変の患者さんで私達の止めるのも聞かず、ジョギングに精をだし、悲劇的な状況となった方を経験しています。運動の種類、強度は医師を受診し血液検査、肝臓の超音波検査などの総合的な検査結果から判断してもらい、指示を受けるのが良いと思います。

 ところで始めに述べました、肥満で飲んベイのちょっとγGTPの高い程度のフォアグラ状態の軽症肝機能障害のオトウサン達はこの限りではなく、自分を甘やかす事なく、節酒の他に一日30〜40分以上の速歩による散歩、水泳等、より運動強度の高い積極的な継続する運動療法が必要である事は言うまでもありません。

【文献】 飯島敏彦:慢性肝疾患患者の運動時の肝血流と運動許容量
実戦スポーツクリニック150-154、1996

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