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 第16回 「気管支喘息と運動」

 喘息発作は気管が収縮しタンの量も増える為、咳、喘鳴(ぜいぜいする)、呼吸困難を生ずる状態です。

 この喘息補佐の原因、誘因としてハウスダスト・チリダニなどのアレルゲン(抗原)や気候、刺激物の吸入、心理的因子の関与など多くの要因が挙げあられており、運動もその内の一つです。運動により起こる喘息発作は運動誘発性喘息と呼ばれ、家の中や外で激しく動いた後や学校の体育の時間に急に苦しくなり、喘息の発作が起こる状態です。喘息児童は発作の恐怖から運動を避けたり、運動嫌いになる場合があり、さらに親や学校の指導者の慎重すぎる運動制限により心身の発達が損なわれたり、喘息そのものを治療する上で逆効果となっている場合もあります。

 運動誘発性喘息は元々の喘息が軽症の人には起こりにくいのですが、中等症以上では半分以上、重症例では8割以上の人に起こると言われています。この発作は運動の6〜8時間後に起こる遅発型もありますが、多くは運動中又は運動終了直後より認められ、普通軽症の場合には10〜15分後には自然に治まります。この原因として、運動による過呼吸の為気管支の表面から水分と熱が失われる事、運動後に気道の温度が上昇する事により気道のマスト細胞が壊されて、ヒスタミンなどの科学物質が遊離し気管支を狭める反応によると考えられています。

 さて、それでは喘息の人は運動を十分にエンジョイしたり、運動で成功を納める事は出来ないのでしょうか?驚くべき事に1985年のロサンゼルスオリンピックでは運動誘発性喘息競技者が金、銀、銅のメダルをそれぞれ15、21、5個獲得しています。競技別に見ると、陸上競技で少なく、水泳で多い結果でした。この原因として水泳は湿気の多い状況下である事、身体を水平にして行う運動である事、呼吸を規則正しく、息をゆっくり出す運動である事、首の部分の呼吸に関係のある神経を冷やす事などが考えられています。

 オリンピックの選手になる事はともかく、運動誘発性喘息は予防が可能であり、適切な薬物治療、適切な運動の選択、十分なウォーミングアップ、鍛練を続ける事により発作が軽減、あるいは消失する事が知られれています。運動の種類ではランニングが最も起こりやすく、マラソン、ラグビー、サッカーなどは注意が必要です。

 一方、先に述べましたが、水泳はかなり長時間ハードにやっても発作を起こす事は少ないと言われています。ここで誤解のないようにしておきたいのは、喘息を誘発する可能性がある運動をしてはいけないと言っているのでは無いという事です。

 喘息は過労になった状態、体力の低下した状態で悪化する傾向があります。運動は心肺機能を高め、体力増強に必須の手段です。その為運動療法、鍛練療法が喘息の治療法として確立しています。ランニングも発作が起きない距離から始め、段階的に距離を伸ばす事により喘息が出にくくなる事が知られています。冬のマラソンではマスクを着用し、冷たい空気を吸入しない工夫も発作の予防になりますし、運動の15分前にインタールなどの吸入により、運動中の発作を未然に防ぐ事が出来ます。医師に喘息の程度をきちんと評価してもらい、一旦発作の起きた場合の対処の仕方、予防手段を習熟すれば、縄飛び、野球、テニス、卓球、バドミントン、サッカー、ラグビー、剣道、柔道、器械体操などどんな運動も可能です。

【文献】
 永倉俊和: 喘息児の治療とセルフケア 創元社1994
 山崎元他: 慢性疾患と運動 文光堂/東京、p148、1997
 古庄巻史: 小児喘息は治る、朝日新聞厚生文化事業団1993

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