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 第19回 「肥 満」

 連日の熱帯夜で睡眠不足のぼんやりした頭で通勤電車に乗ると、車内飲食、車内化粧の群に、相も変わらない内容の週刊誌の中吊りの氾濫で、疲れが倍増します。この国は一体どうなるのでしょうか?「ミッチもサッチも行かない?」国民的問題もそろそろ終わりにしてもらいたいものです。だいたいコロンビア大学のインビテーション・スチューデント等という学歴詐称は可愛いもので、かつて我が国の国会議員にはコロンビアを首席で卒業したと称していた大変なヒトもいました。その方のお名前は私の記憶に間違いなければ、確かコロンビアトップ?という方でした。皆さん頑張って頂きましょう。

 さて、あまり涼しくならない話はここまでにして今回は肥満についてお話しします。昔は夏やせという言葉がありました。逃げようのない蒸し暑さで汗が滝のように流れ、すっかり消耗した上に食欲も無くなり体重が落ちたものと思われますが、最近ではむしろ夏太りの方を多く見かけるようになって来ました。暑さを避けてエアコンが完備された室内で、食欲も落ちる事なく、快適に過ごし、テレビでも見ながら動かずに冷たく甘いソフトドリンク等を多飲する習慣のヒトが多くなった事も一因と思われます。日頃運動療法で屋外の散歩を勧めている私達も酷暑の中の運動を無闇に勧める訳にもいかず、「涼しい時間帯に無理をしないで歩いてください」等と、消極的な指導になっている事を反省しています。

 肥満の方も最近では体脂肪率、肥満度等の客観的な指標を示され、「私は太っていない」等という無自覚の方は少なくなって来ました。しかしながら肥満に至った経緯を聞くと、運動量が少ないことは一様に白状しますが、食生活については、特に女性の場合には食べ過ぎを自覚している確信犯のヒトが少なく、「ご飯は茶碗に半分しか食べない小食なのに太るのが不思議だ」等と言っているヒトが多いように思います。話をよく聞くと、副食の山のようなおかず、おやつのケーキやせんべい、水代わりに飲んでいる甘い缶コーヒー、コーラ類を摂取カロリーにカウントしていない呑気なヒトが多いのです。これらのヒトには、数日間の食事内容を全て書き出してもらい、正確な摂取カロリーを伝える事が重要です。

 しかしながら、中には「私は水を飲んでも太るんです」と言うヒトがいます。確かに摂取カロリーは見たところ多くなく、栄養士も困ってしまいます。本当にそんな事があるのでしょうか?

 肥満には体内の中性脂肪が大きく関与しています。すい臓から分泌され血糖を下げる働きを持つインスリンというホルモンが、肝臓や脂肪細胞で中性脂肪の合成を促進し、その分解を抑制する事が知られています。又、血液中の中性脂肪はリポ蛋白リパーゼ(LPL)という酵素によって分解され、脂肪細胞に取り込まれ、再び中性脂肪として貯蔵されます。太ったヒトでは血液中のインスリンが増加し、インスリン依存性の酵素である「LPL」の活性が亢進し、脂肪細胞での中性脂肪の蓄積が促進され肥満となっていきます。

 このように一度肥満体が作られると、ホルモン系のバランスがますます太りやすい方向へシフトして行き、水太り、空気太りの誤解を招いていると説明されています。1キログラムの脂肪組織を減少させるためには、そこに含有されている中性脂肪の持つエネルギー量(約7000kcal)を燃焼させなければなりません。このためには低エネルギー食事療法を行いつつ、消費エネルギー量と摂取エネルギー量の差を毎日300kcal以上にすることが必要で、このためには歩行40分、体操10分、筋力トレーニング10分の組み合わせを継続することが勧められています。

 肥満の治療は食事療法、運動療法が基本ですが、超肥満のヒト、腰痛、膝痛のヒトでは薬物療法が適応となる場合があります。我が国では「BMI」35%以上の超肥満者に対して食事抑制薬のマジンドールという薬が使われています。

 全人口に対して肥満者の占める割合が33%と高く、超肥満者が多い米国では、肥満対策もより深刻で、薬物療法に対する期待も大きいようです。しかしながら、一年間に1800万人もの肥満者に投与されていたフェン・フェン療法が心臓弁膜症の副作用を起こすとして1997年に発売中止となり話題になりました。これは安易な薬の使用に対する警鐘となりました。

 ところで最近の話題として、腸からの吸収を30%も抑制するオルリスタットという薬が優れた安全性を有する減量薬として、FDAから承認されました。米国での臨床試験では初期体重の5〜10%の減量効果が報告されています。又夢の抗肥満薬として期待されている、β3受容体アゴニストの開発研究や、満腹ホルモンであるレプチン誘導体等の新薬開発も進んでいると言われ、肥満者には朗報です。

【文献】 
 1)大野誠:肥満症につながるライフスタイル、からだの科学184、44
 2)吉田俊秀:肥満の薬物療法、CLINICIAN、98、469、72  

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